近年、レミフェンタニルが痛覚過敏を引き起こすという報告が散見されるが、その機序や発生状況についてはあまりよくわかっていない。また近年、様々な疼痛モデルやオピオイド投与による中枢性感作に、脊髄後角でのニューロンおよびグリア系細胞内のMAP Kinaseの活性化が関与していることを示す報告が多く見られるようになった。そこで我々はレミフェンタニルがどのような状況で痛覚過敏を引き起こすかを確認し、またその痛覚過敏と、ERK1/2のリン酸化に関係があるか確かめるために以下の実験を行った。 雄のSDラットを用い投与時間および投与量を変え、レミフェンタニルを尾静脈に挿入したカテーテルから投与した。tail-flickテストを行い行動学的に痛覚過敏の発生状況を調べた。さらに投与終了後免疫染色を行い、脊髄におけるERKのリン酸化の程度と局在を調べた。さらに120分投与群と生食投与群でWestern Blot法によりリン酸化ERKのタンパク量を比較した。その結果、レミフェンタニルは30分の短時間投与では痛覚過敏を起こさず、120分投与では投与量に依存せず投与終了後の痛覚過敏を引き起こすことがわかった。また、行動学的に痛覚過敏を引き起こす120分投与群において、他の群に比べて有意に多く脊髄後角でのリン酸化ERKを認め、それはニューロンに局在していた。ところが、同様のモデルにおいてERKのリン酸化阻害薬であるU0126を脊髄くも膜下投与したところ、痛覚過敏の発生は抑制できなかった。以上より、レミフェンタニル持続静脈内投与はラットにおいて投与終了後の痛覚過敏を引き起こし、それは投与量に依存しなかった。また、レミフェンタニル120分静脈投与は行動学的に観察される痛覚過敏に伴って、脊髄後角ニューロンにおけるERKのリン酸化を引き起こすが、このリン酸化を阻害しても痛覚過敏は抑制できなかった。レミフェンタニル投与による痛覚過敏の発生に複数の機序が関与している可能性があると考えられた。
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