創傷治癒は血液凝固期、炎症期、細胞増殖期、再構築期という4つの段階を経て行われる。細胞増殖期において傷口周辺の表皮細胞が創面を埋めるように増殖・遊走することで創傷部位の縮小が行われるため、この段階が効率の良い創傷治癒を達成するのに重要なステップといえる。本研究代表者は2-ベンズアゼピン誘導体が表皮細胞の遊走を加速することで、より効率的に傷の修復が達成できることを見出してきた。現在の臨床の場には直接的に細胞の遊走を促進する創傷治癒薬は存在しないため、2-ベンズアゼピン誘導体はまったく新しい作用機序の創傷治癒薬となる可能性がある。2-ベンズアゼピン誘導体による細胞遊走促進作用のメカニズムの解明を目的とし、本年度は以下の検討を行った。(1)表皮細胞を用いた細胞遊走アッセイにより2-ベンズアゼピン誘導体の構造機能連関を検討した。その結果、アゼピン環の窒素の側鎖がエチル基のときは細胞遊走促進作用があったが、さらに立体的に大きい側鎖であるプロピル基ではその作用はなくなった。このことからアゼピン環の窒素の側鎖の大きさが細胞遊走の促進に重要であることが明らかになった。なお、他の部位においては活性に影響はなかった。(2)2-ベンズアゼピン誘導体による細胞遊走促進作用のシグナル伝達系を解明するため、種々の細胞成長因子の中和抗体の存在下、細胞遊走アッセイを行った。その結果、TGF-β及びアクチビンを中和抗体により不活性化した条件において、2-ベンズアゼピン誘導体の細胞遊走促進効果が顕著に抑制されることが明らかになった。これにより、2-ベンズアゼピン誘導体はTGF-β及びアクチビンの分泌を亢進することで細胞遊走を促進していることが示された。
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