皮膚創傷治癒は様々な細胞が関与し、複雑な段階を経て行われる。その中でも表皮細胞の創傷面への遊走が重要なステップであることが知られている。本研究申請者らはこれまでに2-ベンズアゼピン誘導体が上皮細胞の遊走を促進することを見出した。さらには2-ベンズアゼピン誘導体は細胞増殖作用を示さないことも明らかにした。現在臨床で使用されている創傷治癒薬に細胞増殖には影響を与えず、細胞遊走のみを促進するものはないため、2-ベンズアゼピン誘導体はまったく新しい作用機序の創傷治癒薬となる可能性がある。そこで本年度は以下の検討を行った。(1)2-ベンズアゼピン誘導体の作用メカニズムを解明することを目的とし、表皮細胞を用いて種々の細胞成長因子の中和抗体の存在下、細胞遊走アッセイを行った。創傷治癒に関連する細胞成長因子で細胞増殖作用を示さず、細胞遊走を促進するものとして、EGFとTGF-βが知られている。これらのシグナル伝達経路を中心に検討を行ったところ、EGFの中和抗体存在下、2-ベンズアゼピン誘導体の細胞遊走促進効果は阻害されなかったが、TGF-βの中和抗体存在下では阻害された。このことから、表皮細胞において2-ベンズアゼピン誘導体はTGF-βの分泌を亢進することで細胞遊走を促進していることが示唆された。(2)皮膚以外の組織への有効性を探ることを目的として、腸管上皮細胞における2-ベンズアゼピン誘導体の細胞遊走促進作用について細胞遊走アッセイにより検討した。その結果、皮膚と同様に腸管上皮細胞においても2-ベンズアゼピン誘導体は細胞遊走促進作用を発揮することが明らかとなった。このことから、2-ベンズアゼピン誘導体は消化器潰瘍治療薬となる可能性も示された。
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