様々な障害による内耳性難聴は患者のQOLを著しく損ね、再生できない感覚細胞を多く含む内耳では障害からの予防・保護研究がいまだ重要な意味をもつ。本研究では、あらゆる生物が有する根幹的なストレス応答すなわち熱ショック応答に着目した。内耳障害時の熱ショック応答の役割を分子生化学的に解明し、さらに熱ショック応答誘導剤としてしられる薬剤(抗潰瘍薬として既に臨床上広く使われている)を用い、効果的かつ安全に内耳保護へ応用する方法を評価・確立することを本研究の目的とした。このために、障害モデルを2系統(音響障害と老人性難聴)と、モルモットとマウスの2種を用いることで得られる結果に普遍性をもたせ、最終的に内耳疾患に対する熱ショック応答を用いた予防法を確立するため本研究を実施した。20年度ではハートレイ系モルモット音響障害モデルを作成し、熱ショック応答誘導剤の至適投与量を評価した。この実験では、薬剤は単回投与でも内耳に熱ショック応答誘導が可能で、しかも保護効果を示すことができるが、一回量を分割して連日投与する方がより効率がよいことがわかった(100mg/kgを4週間以上が至適投与量)。連用により熱ショック応答が増強されたのである。この結果を踏まえ、21年度では結果の普遍性を持たせるため、マウスを用いて実験をおこなった。マウスに薬剤を経口投与で連日投与をおこなったところ、モルモットと同様にマウス蝸牛へ熱ショック応答が誘導し、音響障害からの保護効果を示した また、以前から作成していた老人性難聴モデルマウスに対してこの薬剤は年齢に伴って進行する難聴の進行と、感覚細胞死の抑制効果を示した。実験を通して致命的な副作用は見られなかった。以上の結果から代表的な内耳障害に対して、熱ショック応答誘導剤が有用でかっ安全な手段であることが示唆された。
|