骨格筋肥大に伴い分泌が亢進する新規液性因子を同定するため、骨格筋肥大モデルマウスの骨格筋における遺伝子発現をコントロールマウスの骨格筋サンプルとともにジーンチップにて網羅的に解析した。骨格筋肥大モデルマウスで発現が亢進していた遺伝子の中から分泌シグナルを有するものでかつ細胞膜貫通ドメインを持たないものを新規分泌因子の候補とした。それらの候補遺伝子のうち、最近新規代謝調節因子として注目を集めているFGF-21の発現が骨格筋肥大モデルマウスの骨格筋で著明に増加していること、そしてその発現は骨格筋細胞においてインスリン-PI3キナーゼーAkt1シグナル経路を介して調節されていることを報告した(FEBS Lett.2008)。さらにFollistatin-like1(Fst11)も骨格筋由来の分泌因子のひとつであり、血管新生作用や心保護作用を有することを発見した。Fstl1の発現は骨格筋特異的Akt1過剰発現マウスの骨格筋で有意に増加し、さらに血中濃度も有意に高値であった。マウス下肢虚血モデルの虚血肢にアデノウイルスベクターを用いて.Fstl1を過剰発現すると下肢虚血肢の血流回復は有意に改善した。Fstl1の血管新生作用の機序として内皮細胞でのAkt-eNOSの活性化が関与していることが示唆された(J Bio1 Chem.2008)。またFstl1のアデノウイルスベクターを経静脈的に投与すると、マウス虚血再還流モデルにおける心筋細胞のアポトーシスを抑制し梗塞領域を著明に縮小した(Circulation.2008)。 以上のデータからAktシグナルの活性化を介した骨格筋からの心血管保護因子の分泌促進が、心血管疾患に対する新たな治療戦略となりうる可能性が示唆きれた。今後、これらの骨格筋特異的トランスジェニックマウス、ノックアウトマウスを作製し病態モデルにおける役割を検討する予定である。
|