本研究は糖尿病の3大合併症の一つである糖尿病性網膜症の発症機序解明とリポプロテインによる新たな治療法開発を目的としている。平成21年度は、当初、疾患モデル動物を用いた研究を行う予定であったが、培養網膜神経節細胞を用いた研究で、糖尿病性網膜症の治療法開発に繋がると考えられる研究結果が得られたため、培養網膜神経節細胞を用いた研究を中心に行い、以下に記す研究成果を得た。本研究成果は雑誌論文(The Journal of Biological Chemistry、査読付)に掲載された。 糖尿病性網膜症では、視神経を構成する網膜神経節細胞が障害されることが知られている。このことから培養網膜神経節細胞に酸化ストレスおよび栄養因子欠乏による細胞障害を誘導し、リポプロテインによる神経細胞保護メカニズムを詳細に解析した。本研究から、アポリポプロテインEを含有するグリア細胞由来リポプロテインは、神経細胞表面のリポプロテイン受容体の一つであるlow density lipoprotein receptor-related protein 1(LRP1)に結合し、細胞内に取り込まれることなしに、細胞内シグナル伝達を誘導して、神経保護効果を発揮することが明らかとなった。 以上の研究成果は、グリア細胞由来アポリポプロテインE含有リポプロテインによる新たな神経細胞保護メカニズムを明らかにしたものであり、今後、さらに本研究を発展させることで、糖尿病性網膜症の治療法開発に寄与できる重要な成果であると考えている。
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