研究概要 |
入浴は日本の重要な生活習慣の一つであるが,生体にとっては大きな負担となることが知られている.入浴中の死亡事故は国内で数多く報告されており,安全な入浴方法の検討が求められている. 平成21年度は,昨年度の基礎的な検討を踏まえ福祉施設での入浴中の心拍変動データ評価を予定していたが,依頼施設より一般高齢者での評価がまだ不十分であるとの指摘を受けたため,自宅での自由行動下における入浴動作中の心拍数・心臓自律神経活動の変化を一般高齢男性で検討した. 対象は,67歳から80歳の自宅で生活する入浴行動が自立した高齢男性4名.防水型ホルター心電計(FM-180,フクダ電子株式会)を用いて連続心電図記録を行った.入浴は,被験者の自宅の浴室にて,平素の入浴手順,入浴時間で行うよう教示した.得られた心電図記録よりRR間隔データを抽出後,心拍変動解析ソフト(MemCalc/Win ver. 2.0諏訪トラスト)を用いて,心臓副交感神経活動を反映する高周波成分(HF),心臓交感神経活動の指標である低周波成分(LF)とHFの比(LF/HF)を算出した.結果,60歳代被験者を除き,他の3名では浴室入室後,僅かに心拍数増加を認めた後,心拍数の減少傾向を認めた.また,70歳代被験者では,浴室入室後初期の心臓交感神経活動の活性が弱い傾向を認めた.数分間で20拍/分以上の心拍数変動を生じた被験者も認められた. 以上の結果から,自由行動下の入浴動作中も,高齢者では,心拍数の低下傾向を認めた.これは,先に我々が報告した統制条件下での温水頸下浸水時の心拍数変化と同様の結果であった.心拍数低下は,心臓交感神経活動の活性作用が弱いことが一因であると考えられた.高齢者や循環薬剤服用患者では,温水浸水時だけでなく,一連の入浴動作中も,循環不全による入浴事故発生に注意が必要と考えられた.
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