近年、癌の分子メカニズムおよび様々な薬剤の薬理メカニズムが明らかにされ、科学的に根拠を持つ併用が可能になりつつある。その中で、アポトーシス関連因子のDR5と、そのリガンドであるTRAILに着目した。癌予防効果を持つ代表的サイトカインであるTRAILは、癌細胞に特異的にアポトーシスを誘導する。しかしながら、多くの癌細胞は、アポトーシス抑制機構の活性化によってTRAIL誘導性アポトーシスを回避している。今後、このTRAIL耐性の克服が癌予防における重要な課題である。また、近年、microRNAという分子群が、癌においても重要な役割を果たしていることが数々の論文に報告されている。申請者は、その中でも特に、TRAIL耐性に関与していることが明らかとなったmicroRNAに注目し、食品成分を用いたmicroRNAの発現調節による新規癌予防戦略への応用を試みることにした。本研究は、TRAIL耐性の克服を目指し、(1) DR5の発現誘導成分の探索、(2) microRNAの発現調節を介したTRAIL感受性増強成分の探索、(3) microRNAの発現調節を介したTRAIL感受性増強メカニズムの解析を目的とする。 まずDR5発現誘導成分の検討において、尿酸合成阻害薬のallopurinol、抗血小板薬のdipyridamole、植物成分では、生薬オウゴンの成分であるbaicalein、生薬カンゾウの成分であるisoliquiritigenin、ダイコンやタマネギの成分であるkaempferol、マメ科植物の成分であるbrandisianin Dに、それぞれDR5発現誘導能があることを見出した。そしてそれらと、DR5の特異的リガンドであり、抗腫瘍性サイトカインであるTRAILとの併用によって、腫瘍細胞に対するアポトーシス誘導が、TRAIL単剤に比べて著しく増強することを確認した。現在、microRNAの発現調節を介したTRAIL感受性増強成分の探索に入っている段階である。
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