本研究の目的は、MRIの新しい撮影法である拡散テンソル法を用いて、末梢神経損傷の新たな診断法を確立することである。MRI拡散テンソル法(diffusion tensor imaging : DTI)は、脳・脊髄での神経走行をin vivoで可視化できる点で、特に中枢神経疾患の診断技術として優れている。この技術を末梢神経に応用することで、より精度が高く、非侵襲的な末梢神経損傷の評価法を開発することを目的とする。まずラットの坐骨神経に損傷を加えた後、拡散テンソル画像を経時的に撮影し、神経損傷による信号変化、および損傷後の再生過程における信号変化を観察した。5分の圧挫損傷を加えたモデル(一時結紮群)と永久に損傷させたモデル(永久結紮群)の2群で、損傷後の変化を比較したところ、DTIのパラメーターFAが、損傷後2週まで低下したのち、3週目から上昇し、4週目で永久結紮群に比べ有意に上昇した。またDTIの垂直成分λ⊥が損傷後2週まで上昇したのち、3週目から低下し、FAと逆相関した。さらに、同時期の組織学的変化を半薄切片を作成して、解析したところ、一時結紮群でFAおよびλ⊥が末梢神経の再生過程と良好な相関関係を認めた。λ⊥は末梢神経再生において、髄鞘形成などの構造的変化に依存した変化である可能性がある。以上の結果から、DTIのパラメータが末梢神経障害後の再生過程を非侵襲的に解析するうえで、有用な手段となることが示唆された。
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