研究概要 |
唾液腺機能低下いわゆる口腔乾燥症はシェーグレン症候群や薬剤の副作用など,比較的高頻度に認められる疾患でう蝕の増加,口腔粘膜の易障害性,嚥下障害,義歯不適合など口腔環境に多大な影響を及ぼす.しかしながら,その治療法は対症療法が主であり,再生療法などの可能性が模索されてはいるものの実現には程遠い.そこでより実践的な口腔乾燥症の治療法開発のために,口腔乾燥症の生理学的背景を明らかにするとともにそれが口腔組織に及ぼす影響について明らかにすることを目的とした.平成21年度は前年度の結果を踏まえ,どのような環境下で分泌低下や分泌上昇が起こるのかについて検討し,その細胞生理学的な意義について検討した.温度環境コントロールによる分泌解析では,実験的に使用される副交感神経刺激であるカルバコールでは25℃から37℃の変化で分泌が約2倍上昇したのに対し,催唾剤として臨床応用されているピロカルピンとセビメリンではそれぞれ約5倍,9倍の分泌上昇を示した.浸透圧コントロールによる分泌解析では唾液腺内に低張性の溶液を灌流すると約50%低張までは唾液分泌が上昇するものの,さらに低張になると分泌が抑制された.一方で高張性の溶液では常に分泌低下が起こり,分泌唾液中のK^+の上昇からも,水チャネルノックアウトと同様の傾向を示した.分泌に重要なイオン供給源であるNA^+-K^+-2Cl^-共輸送担体を薬理学的に阻害した場合は異なるイオン組成を示したことから,分泌により障害を受けるチャネルや輸送担体の種類により唾液中のイオン濃度が異なることが明らかとなり,唾液中イオン濃度解析により口腔乾燥症を分類できる可能性が示唆された.
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