この研究課題に着手した経緯は、(1)誰しもMCSを発症するリスクを持っているという点、(2)既に発症し過酷な状況で苦しむMCS患者は、日常生活上の化学物質を極力回避し、解毒を実践しているが、それだけでは症状は抑制できない点、の2点からである。 この課題に対し、看護の立場からの支援活動が僅かであり、空気質に着目した環境衛生的保健指導の必要性を感じた。MCS患者に聞き取り調査と居宅の空気質を分析することにより、原因物質を解明し、MCS患者が実行可能な範囲内での効果的な支援を明らかにすることを目的とした。これまでの成果として、対象者の聞き取りと精密空気質測定を通して予想以上に問題が複雑であることが明らかとなった。 対象者は室内外の空気質いかんで、症状悪化だけでなく、行動半径まで制限され、食事・水などの制限も余儀なくされており、医学的問題と、社会生活困難の2つの軸で苦しんでいた。治療や食生活、生活必需品の見直し、リフォームなどの自己努力の範疇で調整している一方で、室外空気質は個人での調整は不可能であるという問題が明らかになった。劣悪な室外空気エリアに居住するMCS患者には、空気質測定結果をふまえて、リフォームで室内空気質を調整しても、外気が悪すぎる点を指摘し、引越しの検討を提案するが、経済的理由により実現できていない。発想転換すれば、外気を改善するのが、この患者のQOLを高め、一方、他の人々の健康障害のリスクを回避する点でも最重要であると言える。引き続き研究を進め、深めていきたい。
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