研究概要 |
大気環境中に多く含まれる多環芳香族化合物類によって引き起こされる発ガンプロモーションに関わるタンパク質の同定およびその発現機構の解明を目指して、マウスの胚線維芽細胞(Bhas42細胞)を用いて7種のニトロ多環芳香族炭化水素のプロモーション活性を測定して、6-ニトロクリセン、3-ニトロベンズアントロン、8-ニトロフルオランテンなどが高い活性を示すことを新たに見出した。昨年度に見出したプロモーション活性の高い化合物のうち、2種のPAHs(ベンゾ[b]フルオランテン(B[b]FA)、ベンゾ[K]フルオランテン(B[k]FA))と3種の含酸素PAHs(1,2-ナフトキノン(NphQ)、ベンゾ[b]フルオレノン(B[b]FO)、ベンゾピレノン(BPO))、さらに比較のためにベンゾ[a]ピレン(B[a]P)をBhas42細胞に24時間曝露した際に誘導されるmRNAをリアルタイムPCRによって測定したところ、AhR活性との関連が高いCYP1A1はB[a]P、B[b]FA、B[k]FAで特に顕著に、抗酸化応答との関連が高いHO-1はB[a]P、B[b]FA、B[k]FA、BPOで認められた。またB[k]FAのプロモーション活性試験の際に、抗酸化剤(N-アセチルシステイン)やCYP阻害剤(SKF-525A)を同時曝露すると、いずれも活性が低減する傾向が認められ、活性酸素種生成や、CYPによる代謝の寄与が示唆された。さらに、Bhas42細胞にB[k]FA曝露24時間後のmRNAの網羅的解析を行ったところ、CYP1A1やCYP1B1などのAhRを介する遺伝子やいくつかのDNAリボシル化に関わる遺伝子の増加、細胞周期やタンパク質輸送に関わる遺伝子の増減が顕著に認められた。今後、さらに検討を進め、プロテオミクス解析によるプロモーショ活性に関わるタンパク質の同定、シグナル機構の詳細を調べていきたい。
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