研究課題
近年、NSAIDsが新たな抗がん療法となる可能性が期待されているが、本剤の長期使用はCOX経路代謝物の一括阻害による重篤な副作用が生じる。申請者はPGE2の最終代謝酵素を標的とする阻害ならば、他のPG類の産生を抑制しない点に着眼し、COX-2の下流でPGH2を選択的にPGE2に変換する酵素である膜結合型PGES(mPGES-1)を標的とした新たな抗がん療法の基盤の確立を目指した。本研究ではアゾキシメタン(AOM)誘導マウス大腸発がんモデルを採用し、mPGES-1遺伝子欠損(KO)マウスまたはmPGES-1トランスジェニック(TG)マウスにAOM(10mg/kg/week)を6週間連続で腹腔投与し、12週間後の前がん病変と24週間後の腫瘍形成を検討した。結果、KOマウスでは、WTマウスと比較して、前がん病変の発生および腫瘍形成のどちらも顕著な抑制を認め、逆にTGマウスでは前がん病変数の有意な増加を認めた。KOマウスでは、腫瘍組織中PGE2含有量の低下、がん細胞内のβ-catenin核移行の抑制、がん抑制に関わるCCLS、IL-1、IFNγの発現上昇が認められた。PGE2以外の各種PG類の含有量は、KOマウスでPGD2とPGI2の含有量が有意に増加しており、さらにPGD2代謝物によるPPARγの活性化とNF-κBの抑制も認められた。本研究によりmPGES-1遺伝子欠損マウスでは大腸の化学発がんが抑制されることが明らかとなった。その作用機序としてPGE2産生の減少がβ-cateninやcytokine、chemokineの発現調節を介して発がんを抑制する機構と、PG類の産生バランスが崩れPGD2代謝物を介したPPARγシグナルの活性化やNF-κBシグナルの抑制にする抗がん機構が示唆された。よってmPGES-1の選択的な阻害が、新たな抗がん療法として有用であることが示唆された。
すべて 2010 2009
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (4件)
Biochimie (in press)
Biochemical Journal 425
ページ: 361-371