【目的】歯周疾患は、プラークバイオフィルムの蓄積が原因とされ、その継続的な刺激による炎症反応が歯周炎という不可逆的な疾患の誘因となる。しかし、プラークバイオフィルムの主要構成細菌であるグラム陽性菌と歯周疾患誘発との関係は不明である。一方、宿主細胞の自然免疫系は、Toll-like receptor2(TLR2)によって細菌由来リポタンパク質(LP)を認識することが示されているが、LPの病因論的役割は不明な点が多い。 そこで本研究では、口腔内グラム陽性菌に特有なLPが宿主細胞のTLR2を介して誘導する免疫活性化作用を解明することを目的とした。 【方法】口腔内グラム陽性菌として、う蝕原性細菌であるStreptococcus mutans 109c、S. sobrinus NIDR6715を使用した。Triton X-114二相分離法によって菌体からLPを抽出した。菌体ならびに抽出LP刺激によるヒト単球系細胞THP-1からのIL-8産生量はELISAで評価し、TLR2遺伝子を導入したHEK293細胞におけるNF-κBの活性化はルシフェラーゼレポーター法で評価した。 【結果・考察】S. sobrinusとS. mutansの菌体刺激の結果、いずれの菌株もIL-8産生を誘導し、NF-κBを活性化したが、それらはS. mutansよりもS. sobrinusで有意に高い値を示した。さらに、両菌株からの菌体抽出LP刺激もまた、上述の菌体刺激と同様な結果を示した。しかし、この菌体抽出LPの活性はリポプロテインリパーゼ処理により完全に阻害された。以上の結果から、う蝕原性細菌は菌体由来LPのTLR2による認識を介して炎症応答を誘導していること、そしてS. mutansよりもS. sobrinusの方が強い炎症誘導活性、免疫活性を持つことが示唆された。
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