研究概要 |
糖尿病性下腿潰瘍は有効な治療法が存在せず、近年、自己血管幹細胞移植による血管再生療法が考案されたが、糖尿病患者では本細胞の血管再生能が低下しており十分な効果が期待できない。そこで我々は、自ら開発した次世代型の無血清条件下生体外増幅培養法(ex vivo expansion=EX)により糖尿病マウスの自己血管幹細胞を糖尿病環境から解放、再教育することにより、細胞数が数百倍にも増幅され、さらにその血管再生能が正常に戻ることを世界で初めて見出した。この知見を基に、平成20年次の研究として糖尿病患者においても血管幹細胞の細胞生物学的活性低下を証明し、EX法によりその機能低下を回復できることを確認した。糖尿病患者から末梢血血管内皮前駆細胞を採取し、EX法にて1週間培養することで細胞数と血管再生能は数十倍になった。生体外培養増幅法による糖尿病血管幹細胞の血管再生能の回復機構の解明するため糖尿病患者血管幹細胞(CD34陽性細胞)及びEX後血管幹細胞のmicroarrayを行った。現在のところ、血管形成回復を生じる責任遺伝子は抗酸化酵素(Catalase, MnSOD)ではないかと考えている。EX法がこれらの遺伝子を活性化することにより糖尿病血管幹細胞の機能を改善するのではないかと推測する。平成21年度は糖尿病患者の成体外増幅培養自己血管幹細胞の移植療法の臨床応用への可能性を動物実験にて証明した。EX後糖尿病末梢血EPC移植群は健常人末梢血EPC移植群より有意に治癒期間が短く、組織内血管密度、肉芽形成が有意に高かった。EX法による血管幹細胞移植療法の利点は、小数の血管幹細胞でも血管再生能が改善した十分量の血管幹細胞が保証されること、採取血管幹細胞の分割凍結保存により随時増幅/複数回移植療法が可能となり患者の身体的負担を軽減できることで、より効果的な血管再生療法が開発されることになる。下肢切断の回避、患者QOLの向上、介護費の軽減が実現可能になり社会的意義は大きい。
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