我々はPax3-CreマウスとCag-Cat-GFPマウスを掛け合わせて得られた体節細胞が標識された胚の切片を作製し観察を行った。その結果、2-5体節体節由来の筋芽細胞はE10.5から横隔膜の領域に移動を開始し、E14.5には筋芽細胞が横隔膜全域に広がっている様子が観察された。また今回の観察結果より、前肢後方部の8-12体節領域の細胞も側方向から横隔膜に移動している様な組織像が認められた。これらの結果より、横隔膜を形成する筋芽細胞は2つの領域の体節(頸部と腹部)より横隔膜に移動している事が明らかになった。先天性疾患である横隔膜ヘルニアには側方部の欠損、背側中央部の欠損などがある事が知られており、今回明らかになった2カ所からの筋芽細胞の移動がこの疾患のタイプの違いに関連している可能性が考えられた。 我々は更にこのGFP標識されたマウスの体節をニワトリ胚に移植し、両種間における体節の移動の違いを検証した。その結果、移植された体節の細胞はニワトリ胚の中で生着し、昨年明らかになったニワトリ胚の体節標識実験と同様な移動経路をたどり、心臓と肝臓の間に向かう様子が観察された。この結果から、マウスの体節の移動経路とニワトリの体節の移動経路にはほとんど差が無く、両種間で保存された機構である事が考えられた。これらの結果より、横隔膜を持つ哺乳類の体節細胞は筋肉へと分化を行うが、ニワトリでは起こらないため哺乳類が独自に横隔膜領域で体節由来の細胞を筋肉に分化させる機構を獲得したことが、横隔膜獲得に繋がったのではないかと考えられた。
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