肝幹・前駆細胞は肝細胞と胆管上皮細胞の両方に分化できる能力を持ち合わせている。しかしこの2方向性の分化を制御する分子メカニズムの詳細は不明である。転写因子Sall4は器官形成、胎児発生、ES細胞において未分化性の維持や分化決定に重要な役割を果たすことが報告されている。肝発生におけるSall4の機能を解析するために、マウス肝臓由来Dlk+CD45-Ter119-肝幹・前駆細胞を分離し、ウイルスを用いてSall4遺伝子を強制発現またはノックダウンしin vitro培養、またin vivo肝幹・前駆細胞移植を行った。Sall4は肝幹・前駆細胞に発現し、生体の肝細胞では発現を認めなかった。さらに肝発生の進行に伴い、Sall4の発現は減少していくことがわかった。肝幹・前駆細胞にSall4遺伝子を強制発現し、in vitroで肝細胞への分化を誘導するオンコスタチンMや細胞外マトリクス存在下で培養すると、形態的また肝成熟化遺伝子の発現から肝細胞への分化が顕著に抑制されることが確認された。またin vitro胆管分化を誘導するコラーゲンゲル包埋培養を行うと、Sall4遺伝子の強制発現により、胆管上皮細胞に発現するサイトケラチン19陽性のbranching構造(胆管)の数および大きさが顕著に増加した。一方でSall4遺伝子のノックダウンによりこれらのbranching構造形成が抑制された。in vivoにおいて胆管障害ヌードマウスへSall4遺伝子を強制発現した肝幹・前駆細胞を移植すると、サイトケラチン19陽性の胆管へより効率的に分化することが確認された。これらの結果からSall4は肝幹・前駆細胞の肝細胞への分化を抑制する一方で胆管上皮細胞への分化を促進し、肝幹・前駆細胞の2方向性の分化決定に重要な役割を担う可能性が示唆され、将来の肝疾患に対して細胞移植療法への応用に有用であると考えられた。
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