本年度はイオン環境に応じたミトコンドリアNa^+/Ca^<2+>交換機構の回転方向の基礎的検討を行い、心筋虚血-再灌流障害時における細胞膜およびミトコンドリアNa^+/Ca^<2+>交換機構の役割の解明を目指した。まず単離心筋細胞の細胞膜を透過性にする技術によってミトコンドリア外液の環境を制御し、ミトコンドリアの活性を画像化によって検出する系を構築した。この系に脱共役剤のFCCPを適用した結果、虚血時ではミトコンドリア内にCa^<2+>が流入することによってミトコンドリアの膜電位が消失し、ATP合成能が低下することが明らかになった。また外液Ca^<2+>濃度を変化させることで、ミトコンドリアでは正常時および虚血時ともにCa^<2+>ユニポーターを介してCa^<2+>が流入し、Na^+/Ca^<2+>交換機構を介してCa^<2+>が排出されることを見出した。さらに単離心室筋細胞に、ミトコンドリア膜電位プローブのTMREを導入し、虚血時のミトコンドリア膜電位を測定した。その結果、虚血時に膜電位のオシレーションが見られる細胞があり、このオシレーションは細胞質内Ca^2+濃度の上昇と共に不可逆的な脱分極状態で終了した。よって膜電位オシレーションのきっかけとなる細胞質、およびミトコンドリア内のCa^<2+>濃度の上昇を防ぐことは、ミトコンドリアを介する心保護に重要だと考えられる。 以上より、心筋虚血-再灌流障害時には、ミトコンドリア内のCa^<2+>濃度の上昇を防ぐために、ミトコンドリア上のNa^+/Ca^<2+>交換機構に作用せずに、細胞膜上のNa^+/Ca^<2+>交換機構を選択的に抑制する薬物が心保護薬として有用であることが明らかになった。
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