研究課題
肺がんの発生にはKras遺伝子の変異が重要である。しかし発がん機構の多段階説によると、ただ一つの遺伝子の変異だけでは発がんに不十分であり、発がんに至るまでには、更なるDNA損傷に基づく変異が蓄積していると予測できる。本課題では、多段階発がんにおけるDNA損傷塩基の役割を解明するため、K-ras変異によって肺癌を生じる遺伝子改変マウスを用いて、肺腫瘍形成過程で蓄積するDNA損傷塩基を解析した。マウス肺を免疫組織化学的に解析した結果、変異型K-ras発現後3,6,9週と腫瘍形成が進むにつれて、8-オキソグアニンと8-ニトログアニンの生成・蓄積が増加していることが明らかとなった。8-オキソグアニンは酸化的DNA損傷塩基であり、8-ニトログアニンは活性窒素が引き起こすDNA損傷塩基である。これらDNA損傷塩基は更なる変異に繋がることから、K-ras変異による肺がんの発がんに重要な役割を果たしていると考えられ、バイオマーカーとしての有効性が示されたことは重要な成果である。質量分析装置を用いた定量的解析を試みているところであり、今後さらに検討を進める必要がある。腫瘍形成過程で蓄積するDNA損傷塩基の生成機構を解明するため、さらに詳細に検討した結果、肺腫瘍部位では炎症所見が認められなかったにもかかわらず、炎症関連因子NF-kappaBと誘導型NO合成酵素(iNOS)が発現していた。変異型K-rasによりERKが活性化し、NF-kappaB活性化、iNOS発現誘導により産生した活性窒素を介して8-ニトログアニンが生成したと考えられる。一般に腫瘍形成部位では炎症をともない、炎症によって生じる活性種が発がん・がん進行に寄与すると考えられるが、K-ras変異による炎症を介さないiNOS発現とDNA損傷塩基の蓄積も、発がん・がん進行に関与している可能性が示されたことは重要な成果である。
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DNA Adducts : Formation, Detection and Mutagenesis(DNA, Properties and Modifications, Functions and Interactions, Recombination and Applications)(Nova Science Pub Inc)
ページ: 169-181
炎症・再生医学事典(朝倉書店)
ページ: 328-331