研究概要 |
現在、関節軟骨再生医療の新たな細胞材料として組織幹細胞が注目されるようになってきた。本研究では、再生医療における幹細胞の可能性と新たな分離培養方法の開発、および分離した幹細胞の性質に関する検討を行った。 研究初年度では、1.関節滑膜組織から幹細胞画分のみを選択的に抽出し、これを培養する方法を開発した。同法はin vitro試験では極めて再現性が高く、分離した幹細胞の優れた性質を示唆する結果を得たが、ウサギへの移植試験において一部繊維化を認めるなど、in vivo試験での不安定性という課題を残した。細胞移植の手術など細胞以外の要素も多く考えられるため、今後の検討課題である。 しかし,上述した幹細胞のin vitro培養を通じて、血清の低減化あるいは無血清化が幹細胞の性質に大きく影響するという重要な結果を得た。これを受けて2.血清の低減化が筋組織初代培養において幹細胞画分を著しく増加させることを明らかにし、また、マウス新生児脳の無血清培養系において神経幹細胞の多能性を証明するに至った。多くの幹細胞において安定した培養方法の開発は課題となっており、本研究成果は、細胞移植に先立って行われる幹細胞培養法の開発あるいは改良に直結する重要な基礎的知見となりうると考えられる。 本研究の最終年度では、次世代の再生医療材料である人工多能性幹細胞(iPS細胞)の医療応用の可能性を考慮し、発展研究として関節軟骨再生に有用な幹細胞をiPS細胞から分化誘導する研究を実施した。その結果、一連の研究を通じて開発した手法の一部を応用することで3.軟骨分化能力を有する間葉系幹細胞を高純度で分化誘導することに成功した。以上の結果は、本研究計画を通して得られた成果が幹細胞培養において基礎となる情報を含み、幹細胞を用いた新しい再生医療技術の開発にも十分寄与しうることを示している。
|