研究概要 |
アスベスト(石綿)曝露は悪性中皮腫や肺癌を引き起こす。石綿の発癌作用はよく知られているが、一方で癌疾患の抑制に働く抗腫瘍免疫機能への石綿曝露影響は不明な部分が多い。抗腫瘍免疫において、腫瘍細胞を特異的に殺傷することのできる細胞傷害性T細胞(CTL)の役割は重要である。CTLは、腫瘍抗原を認識したナイーブCD8^+T細胞から分化することが知られている。これまでCTLへの石綿曝露影響については明らかにされていなかったが、昨年度の本研究成果によって、石綿曝露がアロ抗原特異的なCTLの分化が抑制することを明らかにした。 今年度は、CTLの分化に関わる細胞外の因子,サイトカインに注目し、CTL分化に対して、促進的に作用するIFN-γ,TNF-α,IL-2及び抑制的に作用するIL-10の産生への石綿曝露影響を調べた。その結果、IL-10とIFN-γは、アロPBMC刺激で産生量が増加したが、IL-2とTNF-αは一定量を示した。石綿曝露でIL-10,IFN-γ,TNF-αの産生量は抑制されたが、IL-2に関しては有意差がなかった。これらの結果は、IL-10がCTL分化に抑制的影響を与えることを否定し、IFN-γとTNF-α産生量の減少がCTL分化抑制に伴ってみとめられることを明らかにした。吸入された石綿がCTL分化への抑制的影響を介して腫瘍疾患発症を促進することが示唆される。 我が国では、現在、石綿の職業曝露から環境曝露への拡大が社会問題となっている。CD8^+T細胞は末梢血より容易に採取・試験出来ることから、本研究成果より得られる知見は石綿被曝露者の分子医学的早期発見に向けて重要な情報を与えると考えられる。
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