肝臓はインスリンの三大作用組織のひとつであると同時に、アミノ酸のたんぱく質合成経路をもつ点においても重要である。その転写の鍵となるのがp70 rebosomal protein kinase 1(S6K1)であり、この分子が過剰栄養などで異常に活性化されることでインスリン抵抗性が引き起こされる。しかしながら、その上流のメカニズムは明らかにされておらず、本研究では栄養センサーとして知られるRheb/mTOR、その上流分子のVps34が重要ではないかという仮説を立てて研究を行った。 1. Vps34が活性化される栄養シグナルの同定 HEK293細胞を用いてアミノ酸刺激した際のVps34およびRhebの発現の有無を調べた。アミノ酸刺激にはロイシンの単独投与と細胞培養用のアミノ酸カクテルを用いて刺激した。ウェスタンブロットで確認したところVps34およびGTP-bound Rhebは発現量が増した。次にRheb siRNAを用いてノックアウトした細胞にアミノ酸刺激を行うとRhebの発現は減少したが、Vps34の発現量には変化がなくVps34はRhebの上流に存在することが示唆された。さらに培養液からアミノ酸を除去しVps34の発現が消失することを確認した。また、このVps34はRabと複合体を形成する。アミノ酸刺激群、刺激なし群で免疫沈降アッセイしたところ、アミノ酸刺激下において複合体を形成している一方、非刺激下では形成されていなかった。このことからアミノ酸によってVps34はRabと複合体を形成することが示唆された。 2. 糖尿病マウスにおいてS6キナーゼ活性が上昇しているメカニズムの解明 本実験では、異なるマウス群(db/db糖尿病マウス、高脂肪摂取マウス、コントロールマウス)におけるS6K1の活性化の相違を検討したが、上記にあげる順で活性が強い結果であり、その上流であるmTORの活性化と一致していた。Rhebの発現量については、過食であるdb/dbマウスにのみ高く、高脂肪食群とコントロール群には差がなかった。現在さらに詳細に検討中である。
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