児童虐待やネグレクトなどの不適切養育の理解・予防のためには、まず正常な養育行動を司る神経メカニズムを明らかにしなければならない。そこで我々は、哺乳や仔の安全を守るといった基本的な養育行動が哺乳類進化において保存されていることに着目し、マウスモデル系を用い、養育行動の神経メカニズムの解析を行っている。これまでの研究で、脳内養育行動中枢は視床下部内側視索前野(MPOA)の主として背外側部に存在すると考えられたが、背外側MPOAはほとんど研究されていない脳領域であり、どのような性質のニューロンが局在するのかが不明であった。平成20年度の本スタートアップ研究では、ニューロンの転写活性の指標であるc-Fos蛋白質発現の免疫組織化学的解析により、養育行動を行っているマウスでは背外側MPOAの中でも特にAnterior commissural nucleus(ACN)と呼ばれる場所が特異的に活性化していること、またMPOAのその他の領域も活性化ニューロンを含むが、内側視索前核MPNと呼ばれる部位では活性化が起こっていないことが明らかになった。さらに、ACNは多くのオキシトシン産生ニューロンを含むことが知られているが、これらのオキシトシンニューロンではなくその周辺の大型のニューロンが養育行動に伴って活性化することが示唆された。現在、これらの非オキシトシンニューロンの性質や神経伝達物質を特定する目的で、In situ hybridizationとc-Fosの免疫染色の二重染色を行っている。さらにオキシトシンが養育行動に与える効果を調べるため、ACNに発現するオキシトシンや類似のペプチドホルモンの遺伝子改変マウスの養育行動を解析中である。
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