研究概要 |
Bacillus anthracis(炭疽菌)は、土壌から分離される通性嫌気性グラム陽性桿菌で、人獣共通感染症の起因菌である。ヒトにおいては、皮膚炭疽、腸炭疽、肺炭疽を発症し、致死率の非常に高い病原細菌である。炭疽菌の病原因子(PA,EF,LF)に関する研究や、宿主免疫系から逃れる莢膜合成(capBCADE)に関する研究はすでに複数報告されているが、感染メカニズムの詳細は未だ解明されていない。本研究は、既知の病原因子以外で感染に必須な炭疽菌の新規病原因子の同定を試み、より詳細な感染機構の解明をめざすことを目的とする。そこで、他のBacillus属の個体が持つものとは異なる、炭疽菌特有の2つのプラスミドpXO1, pXO2に着目した。 (i)まず、グラム陽性菌特有の分泌シグナル配列をSignalPプログラムにて検索し、病原プラスミドにコードされた分泌シグナル配列を有する短いペプチド、タンパク質を抽出した。その結果、pXO1上の全204ORFに対して23のshort ORF、pXO2上では全104 ORF中12のshort ORFと1つのsignal peptidase I(SPI)を抽出した。 (ii)野生型株・pXO1のみを持つ株・pXO2のみを持つ株・両プラスミドを脱落させた株の4種類の炭疽菌それぞれの培養上清を宿主細胞に添加し、細胞形態を観察した。宿主細胞にHeLa細胞、vero細胞を用いたところ、野生型株・pXO1のみを持つ株の培養上清を添加した場合に細胞形態の変化が見られた。特にvero細胞においては、短時間で顕著な変化が見られた。ここから、細胞形態変化はpXO1に起因することが推定された。また、この形態変化はアポトーシスによるものではないことが確認された。ところが、caco-2細胞、A549細胞、293細胞を用いたところ、上記の形態変化は見られなかった。この結果より、培養上清中に含まれる因子による形態変化は、細胞特異性があるのではないかと推察される。
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