研究概要 |
抗癌剤耐性は癌治療における最大の問題であるが、大多数の抗癌剤ではそのメカニズムはわかっていない。そのような背景の中でも分子標的薬であるゲフィチニブは作用機序が明確であり、その耐性メカニズムの一部も明らかになっている。その一例としてT790M耐性変異があげられる。EGFR遺伝子に活性化変異があるとゲフィチニブが奏効するが、さらにT790M変異があると耐性になるのである。ゲフィチニブ耐性症例の約半数でEGFRのT790M変異が確認されているが、抗癌剤投与前の原発巣ではほとんど検出されていない。このT790M変異は原発巣にすでに少数混在していることが理論的に予測されており、原発巣や治療中に増殖したCTC(circulating tumor cell)中のT790M変異細胞を検出することができれば、耐性出現を予測できる。本研究では、高感度(<1/10,000)の変異検出法(BEAMing)を用いたゲフィチニブ耐性予測法を確立し、その臨床的有用性を検討した。 検出手法としては次世代シークエンスの基盤技術にも用いられているエマルジョンPCRを基にしているBEAMingを用いた。BEAMingの変異検出のプローブに関して蛍光標識LNA(lockednucleic acid)を新たに用いるなどT790M検出用に改良し、1/10000の感度でT790M耐性変異を検出することに成功した。 非小細胞肺癌263例の活性化変異の解析を行い、exon19におけるsmall delition45症例、L858R point mutation52症例など112症例に活性化変異が同定された。BEAMingによりT790M耐性変異を解析したところ20症例にT790Mが同定され、そのうち活性化変異を持つ症例は15症例であった。原発巣のT790M耐性変異の有無によるゲフィチニブ投与後の予後に有意差は認められなかった。T790M耐性変異のほとんどが原発巣においては1%未満の存在割合であり、抗癌剤の初期応答に関しては影響しないものと考えられた。 本研究により遺伝子変異を高感度に検出するBEAMingの改良に成功した。この技術は血液中の遺伝子変異の測定など、大いに役立つものと考えられる。
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