研究概要 |
サイトカインシグナル伝達は、細胞の分化・増殖・細胞死などの細胞機能を調節し、免疫系のみならず生体内の様々な細胞に作用を示している。サイトカインシグナル伝達経路の一つであるJAK/STAT経路において、STAT-3の持続的活性化が前立腺癌、乳癌、多発性骨髄腫などの悪性腫瘍おいて癌細胞の増殖に関与していることが報告されており、STAT-3を標的とした阻害剤が癌など難病治療において非常に効果的である事が示唆されている。本研究ではサイトカインシグナル伝達の抑制分子であるSOCS(suppressor of cytokine signaling)分子を用いた癌細胞特異的な治療法の開発を目的とする。 SOCSによる前立腺癌の治療法を開発するため、まず前立腺癌細胞株におけるSOCS3の抗腫瘍効果を検討した。SOCS3をアデノウィルスベクター(AdSOCS3)により前立腺癌細胞株(DU145,LNCaP)に導入した結果、対照のAdLacZよりも著明な細胞増殖抑制を示した。この抗腫瘍メカニズムを調べた結果、SOCS3は細胞周期レベルでもG0/G1 growth arrestを誘導すると共に、活性型caspase3の発現を誘導する事でコントロールよりも効率よくアポトーシスを誘導していた。これらの抗腫瘍効果は低分子のJAK2阻害剤であるJAK inhibitor Iよりも強く見られたことから、SOCS3が抗癌剤として有用であることを示している。現在、ドラッグデリバリーシステムを用いてSOCS3の発現ベクターを癌細胞に導入するシステムを構築している。
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