研究概要 |
単分子磁石とは一つの分子が磁石として振る舞う化合物であり, この20年間に分子磁性の分野では大きく進歩し最も注目を集めている化合物群である. その物性発現には, 大きな基底スピン多重度と容易軸型の磁気異方性の導入・制御が重要であり, 重希土類金属イオン, 特にテルビウムやジスプロシウムの利用に注目が集まっている。本研究ではこれまでの知見に基づき, Tb-Cu二核錯体における磁気異方性の詳細の解明とその制御に関して知見を得ることを目的として遂行したものである. 錯体が確実に単分子磁石となりうるための条件を構造, 磁気特性, 計算化学的な観点より多角的に検討を行い, 単分子磁石として振る舞うために重要な磁気異方性を結晶場という立場から再検討した. その結果, 単分子磁石としての特性は希土類イオンを取り巻く結晶場の形状より定性的に理解可能なこと, また同型のTb, Dy, Ho, Er錯体について系統的に磁気特性を解析することで磁気異方性の定量化も可能なことを見出すことに成功した. 以上より, 分子構造の設計に基づいて単分子磁石挙動を制御するための設計指針を示すことに成功するとともに, 分子磁性体におけるanisotropy engineeringの概念導入にも成功した. 本課題研究は希土類金属イオンと周囲の金属イオンとの相互作用の解明, 光による分子磁性の制御を目指した物質系の創成と、その詳細な物性・機能性の解明を目指し, 研究を開始したものであり, 光による分子磁性の直接制御には至らなかったが, 分子磁性を構造化学的な面から制御するための新たな設計指針を確立でき, 今度の更に明示的に分子磁性制御を行うための重要な知見を得ることに成功したといえる.
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