本年度は、主にナノシートの中に含まれる希土類イオンの発光特性について、吸着状態、水分子の影響、層内希土類イオンの発光、電気化学発光特性など、様々な角度から検討し、ナノシートと希土類イオンとの相互作用を利用した発光の実学的側面についても検討した。特に顕著な成果についてまとめると以下のようになる。 1、TiOやNbO系ナノシート表面にそれぞれEuやTbを吸着させるだけで、ナノシートからのバンドギャップ励起によるエネルギー移動が生じ、希土類イオンが強い発光を示すことが発見された。この発光には、水分子が大きく影響し、水分子がエネルギー移動を促進していることが明らかとなった。すなわちナノシート表面の吸着水分子と希土類イオンを水和している水分子の強い水素結合による。そのため、内部のペロブスカイト型ナノシートの希土類イオンの発光には水分子の影響は受けない。この希土類イオン吸着ナノシートをアルコールや他の遷移金属イオンを含む溶液に入れることで、発光が減少した。特に後者の場合には、生成したホールと電子が表面で光電気化学反応が生じるためである。溶液センサーとしての可能性が示された。 2、層間に希土類イオンをインターカレートした層状物質を作製し、その発光特性を測定した。特にpH依存性に関してはEXAFSを駆使して層間水の状態を検討した。その結果、pHに依存して発光特性が変化するのは、層間の水分子の結合状態が変化し、それにより、エネルギー移動が変化し、発光の強度を変化させることが明らかとなった。また、水分子のphononの効果を調査するため、軽水と重水中での発光強度を比較した。特に重水中では軽水に比べて発光強度が増加し、水分子の振動が消光効果をもたらす一般的現象を確認した。結局、水分子は、消光効果も有しているが、それよりもさらにエネルギー移動促進効果が強く、発光は水分子の存在下で促進されるのである。
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