当該研究は、昨今注目されている電気自動車、ハイブリッドカー用の駆動モータに用いられる希土類磁石Nd-Fe-B系焼結磁石の磁化反転、保磁力発現機構に関連する研究である。とくに、申請研究では、その重要特性である保磁力発現機構を磁石内の磁壁運動との関連から解明しようとする。磁壁運動は、これまでの一連の検討から直流磁化率測定により、もっとも明瞭に捉えられることが判明した。そこで、本研究では、直流磁化率測定装置を材料から厳選して作成し、磁化率測定を行った。重要な成果は、初磁化時の磁壁運動におけるピンニング挙動の強弱が、磁化反転時の核生成や、反転領域形成のエネルギーと相関していることが実験的にとらえられた点である。この知見から、磁壁運動性を低下させる熱処理条件や、添加物の拡散、添加法が、保磁力増加に大きく寄与することが確認され、今後の工業的応用が期待できる方策が考案できた。また、同知見を得るまでの検討過程で、焼結磁石の磁化反転は、従来考えられてきたような個別結晶粒子内の単独の磁化反転核生成で進行するのではなく、反転核生成後の結晶粒子集団(100μmサイズと推定)領域内の協同現象として発生、進行することが明らかにできた。この点は、従来の磁石の保磁力発現機構に対する理論に、明瞭な進展をもたらしたと考えている。
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