・研究目的 電子顕微鏡の次世代のX線検出器として期待されている超伝導転移端センサー型量子熱量計(TES)をSEMに搭載したSEM-TES分析システムは、低電流・低加速電圧下での高分解能形態観察と高エネルギー分解能組成分析を同時に行うことが可能である。本研究では、本法の検出限界評価を行った上で微細科学捜査試料に応用することを目的とした。 ・研究試料 検出限界評価には、標準ガラスであるNIST SRM 1412を用いた。微細科学捜査試料として、自動車塗膜片、射撃残さ、大気粉塵を収集し分析に用いた。 ・研究成果 NIST SRM 1412について、SSDとTESの条件を加速電圧10kV、照射電流1.25nAとして測定した。その結果、用いたSSDのAlに対するエネルギー分解能は約140eV、TESでは約18eVであり、10倍近い高分解能スペクトルが得られたが、検出限界はほぼ同程度であることがわかった。 自動車塗膜片を分析した結果、Ti-K線とBa-L線を分離して検出することができ、その他の元素も含めて層ごとおよび車種ごとの違いが表れ、有用な識別情報が得られた。射撃残さを測定した結果、S-K線とPb-M線およびSb-L線とCa-K線などが鮮明に分離して検出され、SSDよりも詳細な組成情報を得ることができた。大気粉塵について、数μmほどの大きさの粒子を分析し、軽元素~重元素の組成情報を得ることができた。Fe、Cu、Znといった一連の遷移元素のL線、およびS-K線とPb-M線など、エネルギーの極めて近接したピークが明瞭に分離して検出され、粒子ごと、粒子中の部位ごとの詳細な元素分布情報が得られた。 本研究により、科学捜査分析におけるSEM-TES分析の有用性を実証することができた。今後は、本研究によって得られた基礎データを活用し、実際の犯罪関連試料への適用を試みたい。
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