【目的】 がん化学療法の個別化を目指し、口腔癌患者由来の生検腫瘍組織を用いて抗がん剤感受性試験(以下、感受性試験)を行い、患者個々に有効な抗がん剤を選択するための科学的根拠を得る。 【方法】 口腔癌患者由来の生検腫瘍組織を用いたin vitro抗がん剤の効果判定法として確立している以下の2法、三次元的に培養を行うことにより生体内と類似した環境下における薬剤感受性の評価が可能なコラーゲンゲル包埋培養薬剤感受性試験(collagen gel droplet embedded culture drug sensitivity test : CD-DST法)および薬剤部で実施可能なコハク酸脱水素酵素活性法(succinic dehydrogenase inhibition test : SDI法)により、シスプラチン、カルボプラチン、フルオロウラシルおよびドセタキセルの4剤について感受性試験を行い、各抗がん剤に対する感受性を検討した。さらに、術前化学放射線療法の治療効果を手術摘出標本の病理診断により組織学的に判定後、感受性試験の結果と比較し、口腔癌治療における感受性試験の臨床的有用性について検討した。 【結果】 5症例について2法による感受性試験を行った結果、成功率はそれぞれ60%であった。両法での感受性試験が成功した症例は5症例中2症例であり、いずれの症例においても両方の有効性の判定は一致した。さらに、1症例においては両法の結果に高い相関性がみられた。また、感受性試験の結果と手術摘出標本の組織学的手術前治療効果判定に相関が認められた。 【考察】 SDI法とCD-DST法による感受性の判定および手術摘出標本の組織学的手術前治療効果判定に相関が認められたことから、SDI法の口腔癌治療における感受性試験の臨床的有用性が示唆された。今後、さらなる症例の蓄積が必要であるが、本研究で得られた成果は科学的根拠に基づいた口腔癌治療の足掛かりとなり、より安全で効率のよい治療の一助になると考えられる。また、科学的根拠に基づくがん薬物療法は、患者の利益だけでなく無効抗がん剤の使用抑制により医療経済の点からも、がん治療における多大な貢献が期待できる。
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