運動トレーニング者を対象(男子学生,10名程度)に,14日間の暑熱順化(最大酸素摂取量の50%~55%負荷の自転車運動を60分間,34°C・40%RHと34°C・80%RHの環境下で実施)と脱順化を行い,順化の影響をみるために34°C・80%RHの環境下で最大酸素摂取量50%~55%負荷の60分間の自転車運動を行う予定であった.しかし,新型コロナウイルス感染拡大に伴い研究継続が不可能となった.2019年度の研究結果をもとに次の実績が得られた.14日間の暑熱順化でいずれの環境条件でも安静時の体温低下,運動時の発汗量・皮膚血流量の増加がみられた.両条件での違いとして発汗反応より皮膚血流反応に差異がみられる傾向にあった.また,運動時の体温上昇は高湿・環境での暑熱順化の方がいくらか小さくなった.一方,環境条件での違いによる脱順化の差異はみられなかった.これらのことから,高温・高湿環境での暑熱順化は同環境下での運動時の生体負担を軽減する可能性が考えられるが,被験者数が少なく,結論は得られなかった.
2019年度に追加実験で実施した高温・高湿環境への季節順化と脱順化が発汗とその他の体温調節機能に及ぼす影響に関する研究の分析を進め,次の結果が得られた.夏への季節順化は冬と比較して局所・全身の発汗反応(体温に対する発汗反応)や汗の塩分濃度低下などの改善が認められた.改善程度は夏>秋であった.一方,高温・高湿環境下での汗の蒸発量(有効発汗量)には両季節で差がなく,無効発汗量は夏>秋>冬となり,汗が蒸発する効率は夏<秋<冬となり,夏で最も低下した.しかし,運動時の体温上昇には季節差がなかった.また,風速の影響も検討し,いずれの季節も風速の増加により発汗効率は改善されたが,この改善は運動時の体温には影響しなかった.
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