研究課題
本研究では、1)分子認識無機材料を複数傾斜堆積させ形成する多元素機能傾斜ナノ薄膜を利用して生体の嗅覚システムの多様性に倣った堅牢な集積化人工嗅覚センサを構築し、2)本センサデバイスを介して得られる膨大な分子センシングデータを人工知能により解析することで生体ガスセンシングによる生体情報のモニタリング機能を実証することを目的とする。研究計画初年度に当たる2020年は4種の金属酸化物材料を用いて多元素傾斜無機分子認識ナノ薄膜の作製を試み、面内で異なる組成分布を持つセンサアレイの構築が原理的に可能であることを確認した。更に詳細を検討するために、ZnO-WO3の2元系傾斜無機ナノ薄膜において熱処理温度と表面組成・結晶構造との相関性を明らかにするとともに導電性・分子センシングの評価を行った結果、表面組成の変化により異なる分子センシング特性が観測された。加えて、傾斜組成を有する複数のセンサ素子群より得られたセンシングデータセットを機械学習により解析することにより、アミン・アルコール・アルデヒド3種の分子群の電気的識別に成功し、本研究で提案する集積化人工嗅覚センサ形成アプローチのPoCが達成された。一方で、センサ材料自体の組成傾斜を利用した方法論の問題点も明らかとなってきており、高度な分子識別センシング機能実現へ向けた基板-センサ-分子間界面の設計指針構築、及び異種集積化センサデバイスの実現へ向けたセンサ表面特性変調に関する基礎検討を開始した。
2: おおむね順調に進展している
多元素傾斜無機分子認識ナノ薄膜が形成可能であることを見出し、傾斜組成センサ群により得られた分子センシングのデータセットと機械学習によりアミン・アルコール・アルデヒド3種の分子群の電気的識別に成功しており、提案するアプローチのPoCを達成できたため。
本研究で提案する集積化人工嗅覚センサ形成アプローチのPoCが達成されたものの、その一方で、作製した金属酸化物ナノ薄膜センサにおいては、i)無機ナノ薄膜組成により劇的に導電性が変調され(電気抵抗変調幅 約14桁)、周辺回路による安定的なシグナルの読み出しが困難となること、ii)分子センシングの電流応答性が全体的に小さく、応答速度が極めて遅いため、生体ガス中に多く含まれる化学特性が類似した分子種の識別を瞬時に行うことが困難であるといった課題も見えてきた。そこで次年度は、金属酸化物ナノ薄膜のアニール温度/雰囲気/時間と基板-金属酸化物界面を設計制御することによりナノ結晶化プロセスを精密制御し、分子センシングの高感度化・応答高速化を狙うと共に、金属触媒アプローチを組み合わせることでセンサの導電性変調を抑制しつつセンサ表面における分子吸着・反応の選択性実現の可能性を探索する。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
Chemical Science
巻: 12 ページ: 5073-5081
10.1039/d1sc00729g
化学工業
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月刊MATERIAL STAGE
巻: 20 ページ: 78-83
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