研究課題/領域番号 |
20F20090
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
桑原 義博 九州大学, 比較社会文化研究院, 教授 (90281196)
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研究分担者 |
NGUYEN THINH 九州大学, 比較社会文化研究院, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | ヒ素 / 重金属 / アジア / ナノコンポジット / ベトナム / バングラデシュ |
研究実績の概要 |
本研究は、アジア地域における地下水や土壌中のヒ素を含む重金属の汚染状況、挙動、及び、それら汚染物質の除去法についてターゲットを置き、(1)デルタのヒ素に富む堆積物層にはどのような微生物種が存在し、ヒ素挙動にどのように影響しているかについて明らかにする、(2)人類に有害であるそのようなヒ素の有効な除去方法の開発を目指す、という2つの柱となる目的を掲げて研究を計画した。 本年度では、当初、ベトナムでの野外調査を計画していたが、本研究の開始直前からの新型コロナウイルスの世界的感染拡大の影響により、ベトナムでの野外調査ができなくなったため、既にアジア地域で採集していた試料に対する各分析について重点を置き、研究を進めてきた。その結果、バングラデシュのデルタ地域からのヒ素に富む堆積物(ピート層)に関する研究では、含有する細菌株が特定できたこと、ベトナム北部での地下水(飲料水)および処理廃水を対象とした研究では、汚泥中にヒ素に加え鉛やカドミウムなどの重金属が高濃度で含まれることが確認され、潜在的な生態リスク評価の計算で、産業汚泥が高い潜在的リスク(RI値が229.7~605.4)を有することを示したこと、タイ南部の塩水池の研究では、ハロクライン(淡水と塩水の境界線)の発生メカニズムとそれによる水質悪化プロセスの解明に成功したこと、などの新しい知見が得られた。本年度は、これらの結果をまとめて、国際誌論文1本と国際学会での発表1件という形で、研究成果を公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、当初、ベトナムのデルタ地域での野外調査を計画していた。アジアにおけるデルタ地域の多くは、今日の大規模なダム建設による地下水位の低下と温暖化による海面上昇により、デルタ堆積層におけるヒ素の挙動や微生物活動に多大な影響を与えていると考えられている地域であるためである。しかしながら、本研究の開始直前からの新型コロナウイルスの世界的感染拡大の影響により、ベトナムでの野外調査を断念せざるを得なくなった。そこで、既にアジア地域(ベトナム、バングラデシュなど)で採集していた試料に対する各分析に重点を置くことにし、研究を進めてきた。その結果、当初、我々が目的にあげていたデルタ地域の高ヒ素濃集層に含有する細菌株の特定に成功したことに加え、結果的には、ベトナムだけでなくバングラデシュやタイなど、東南アジア地域に関する広範囲な研究として展開することにつながった。このような理由から、本年度の研究に関しては、おおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
来年度については、新型コロナウイルスの世界的感染拡大の影響がなくなり、可能となれば、ベトナムでの野外調査を実施したい。ただし、状況が好転せず野外調査ができない場合は、引き続き、採取済みの試料に対する各分析を進める。特に、ヒ素が濃集している層(多くはピート層)の形成年代を明らかにし、海水準変動との関係性を明らかにしたいと考えている。また、研究対象地域に対して、地中蓄積指数や生態リスク指数による評価も進める予定である。 さらに、研究目的(2)の人類に有害であるヒ素および重金属の有効な除去方法の開発を目指すことに関しても研究を進める。具体的には、ココナッツバイオチャーの骨格の表面にα-Fe2O3をドープしたグラファイトカーボンナノシートをコーティングする方法を利用し、新規の吸着複合体を開発することを試みる予定である。開発実験はすでに開始しており、塩化鉄(III)(FeCl3)とグルコン酸鉄(Iron gluconate)の2種類の鉄化合物を用いて新規吸着複合体を作成中である。 まとめとして、初年度の結果、紅河デルタなどに関する当該研究者の先行研究結果、および、研究目的の達成のために得られた全ての結果を元に総合的な議論を進め、同時に、国内外の学会発表及び論文投稿により研究結果を公表する。
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