研究課題/領域番号 |
20F20104
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
崔 龍洙 自治医科大学, 医学部, 教授 (50306932)
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研究分担者 |
AZAM AA 自治医科大学, 医学部, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | MRSA / Cas13a / Bacteriophage / Antibiotic resistance / Staphyloccocus aureus / Antimicrobial |
研究実績の概要 |
本研究は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MSRA)を対象に、mecAを標的とした配列特異的な殺菌法の開発を目指している。今年度は、広い感染宿主域を持つブドウ球菌バクテリオファージ(SAファージ)一株を獲得し、mecA標的CRISPR-Cas13aをそのファージに搭載することに成功した。本ファージは、溶原性ファージ(プロファージ)に属し、マイトマイシンC誘導により臨床分離株から分離された。臨床分離MRSA 500株に対して、99.4%の感染率を示しており、よく知られているΦKファージを含む他のブドウ球菌ファージに比較しても、最も広い感染宿主域を持っていることが確認できた。今年度の大きい成果は、上記ファージにCRISPR-Cas13aを搭載することに成功したことである。具体的には、CRISPR-Cas13aをファージに搭載するため、PCRフラグメントからファージを合成する方法の開発を試みた。ファージゲノムにCRISPR-Cas13aを挿入するため、末端の数十塩基がオーバーラップようにプライマーを設計し、SAファージゲノムを5個〜7個のPCRフラグメントに分割した。その一つのフラグメントにCRISPR-Cas13aを挿入した。そして、PCR増幅産物を用いて試験管内で新しいファージゲノムのアセンブリを行い、黄色ブドウ球菌(SA)細胞内で合成ファージの再起動を実施した。SAは細胞壁が厚いため、一般的に利用されている従来のエレクトロポレーション法では、アセンブリされたファージゲノムをSAに導入することが困難であった。この課題を克服するため、細胞壁が欠損したSA細胞(L-form)を作製し、ポリエチレングリコール(PEG)を介したL-formに対するゲノムのトランスフォーメーションに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、CRISPR-Cas13a搭載を含め、様々なSAキメラファージの作製に成功した。即ち、SAファージゲノムを自由に設計し、そのゲノムを再構築することや再起動することに成功した。本技術はSAのL-formを使用してSAファージゲノムの再起動に成功した初めての成功例である。次の課題は、CRISPR-Cas13aの塩基配列が長いため(約5Kbp)、ファージ従来の機能に障害が生じることや再起動の効率が低い問題の解決である。また、CRISPR-Cas13aの殺菌機能が十分に発揮されていない問題もある。これらの問題を解決するため、まず、CRISPR-Cas13aの挿入位置について検討した。これまでのところ、ファージゲノムの後半部に配置する溶菌モジュールの周りに挿入すると、ファージゲノムの再起動効率が一番高いことが確認できた。しかし、CRISPR-Cas13aの殺菌機能がまだ十分に発揮できない結果が観察された。現在、CRISPR-Cas13aの遺伝子構造や新たな挿入位置について検討を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、CRISPR-Cas13aの機能を十分に発揮させるため、ファージゲノム上の最適挿入位置の検討を行う。また、ファージカプシドが外部DNAを運ぶ能力を向上させるために、ファージの非必須遺伝子の同定や、それを欠損させたキメラファージの作製を進める。更に、将来の合成キメラファージの医薬品化を目指して、非複製型キメラファージの作製法の確立や、ファージの溶菌酵素による非遺伝子配列特異的な殺菌活性を抑えるため、その関連遺伝子群を欠損させたキメラファージの作製も推し進める。
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