肥満は2型糖尿病の主要な危険因子であり,その制御は喫緊の課題である。近年,慢性腎不全で上昇する副甲状腺ホルモン(PTH)や悪性腫瘍で上昇する副甲状腺ホルモン関連タンパク(PTHrP)が白色脂肪細胞の褐色化を誘導することによりエネルギー消費を亢進させ,これらの患者で見られるカヘキシーを惹起することが示されている。 2020年度の検討でわれわれは,糖尿病モデル動物であるob/obマウスにvehicle,PTH製剤(テリパラチド;80,400,1000 μg/kg)の単回投与を行い,Ucp1,Dio2など褐色脂肪細胞に特異的な遺伝子群が誘導されることを見出した。そこでわれわれは,6週齢ob/obマウスにvehicle,PTH製剤(テリパラチド;400 μg/kg)の28日間にわたる連続投与を行い,2021年度はこれらの検討で得られたサンプルの解析を行った。 28日間 PTH製剤の連続投与を行ったob/obマウスは,vehicle投与群と比較し,有意な骨量の増加を認めた。しかし糖負荷試験,インスリン負荷試験において,PTH製剤投与による耐糖能,インスリン感受性の改善は認められなかった。さらに予想とは逆に,PTH製剤投与ob/obマウスは体重増加とともに総コレステロールと中性脂肪の上昇を認め,その要因として摂食量の増加が明らかとなった。PTH製剤投与ob/obマウスにおいて,胃グレリン発現の亢進,さらに視床下部AgRP発現の亢進が認め,PTH製剤が摂食を亢進させる可能性が示された。 以上の結果より,ob/obマウスにおいてPTH製剤は白色脂肪細胞の褐色化を誘導するが,同時に摂食を亢進させるために,糖・脂質代謝や肥満の改善が得られないことが明らかとなった。PTH製剤によるエネルギー消費の亢進を利用して肥満の改善を図る場合は,摂食量の制限も必要であることが示唆された。
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