研究課題
ヒトにおいては、非翻訳領域が、mRNAの分解調節に重要であると考えられてきた。しかし、酵母研究から、タンパク質コード領域、コドンの重要性が明らかとなってきた。最近、ヒトコドンデータをバイオインフォマティクス解析することで、コドンの3番目の塩基がG、CもしくはA、Uの2種類に大きく分かれることを発見し、更にこの違いがmRNAの安定性やタンパク質翻訳に深く関わることを、実験的解析により見出した。タンパク質翻訳依存性、非依存性の機構により,RMA安定性が制御されることが明らかとなったが、その分子メカニズムはほとんど不明である。そこで、ゲノムワイドのCRISPR-Cas9スクリーニング法を用いて、ヒト細胞におけるコドンバイアスによるmRNAや翻訳制御の分子機構を解明することを目標とした。まず、ほぼ同じタンパク質を発現する最適コドンを多く持つmRNA、非最適コドンを多く持つmRNAを発現させたCas9安定発現細胞株を樹立し、最適、非最適コドンの間でのタンパク質発現を変化させる宿主分子をゲノムワイドガイドRNAライブラリーを用いてスクリーニングした。次世代シーケンサーによる制御に関連するガイドRNAの解析の結果、一群の遺伝子をガイドRNAによりノックアウトすることでコドンバイアスによるタンパク質が変化する事が明らかとなった。したがって、これらのガイドRNAの標的遺伝子が、コドンによるタンパク質発現制御に関わる事をが明らかとなった。また、これらの遺伝子を個別に細胞株でCRISPR/Cas9システムを用いてノックアウトし、制御分子の絞り込みを行い、制御により大きく関わる分子の同定に成功した。また、HIA氏は、本研究成果を国際RNA学会(RNA2020)で発表し、ポスター賞を受賞した。
2: おおむね順調に進展している
これまでに、コドンバイアスによるmRNA安定性、タンパク質発現制御に関わる分子のCRISPR-Cas9スクリーニング法の開発に成功し、実際にゲノムワイドスクリーニングを実行、制御因子の網羅的同定に成功した。さらに、これらの分子の個別のノックアウト細胞株の作製から、より強く制御に関わる分子の同定に成功している。したがって、本研究は順調に進展していると言える。今後、この分子の制御に関わるメカニズムや、マウスを用いた制御の生体内における役割を解析することで、全く新たなmRNA制御機構の解明につながると考えている。
ゲノムワイドのCRISPR-Cas9スクリーニング法を用いて、ヒト細胞におけるコドンバイアスによるmRNAや翻訳制御に関わる遺伝子を網羅的に同定した。このスクリーニングで同定した新規分子をノックアウトすることで、コドンバイアスに伴うタンパク質発現が変化することを昨年度の研究ですでに見出している。そこで今後は、この新規分子のコドンによる遺伝子発現に関わる分子機構を解析するとともに、この分子の生体内における機能を遺伝子欠損マウスを用いて解析する。このため、本分子の翻訳との関連をRibosome profilingを用いて検討するほか、本分子に結合するタンパク質複合体や、mRNAをそれぞれ、BioID法、CLIP-Seq法を用いて解析することで、翻訳依存性にどのように制御が行われるか解析する。また、この分子のコンディショナルノックアウトマウスの作製にすでに成功しており、免疫細胞などにおける役割を解析していく。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)
Cellular and Molecular Life Sciences
巻: 78 ページ: 1909~1928
10.1007/s00018-020-03685-7