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2020 年度 実績報告書

イスラーム金融による農業融資は在来型融資よりも有効か?パキスタンの実証研究

研究課題

研究課題/領域番号 20F20309
研究機関一橋大学

研究代表者

黒崎 卓  一橋大学, 経済研究所, 教授 (90293159)

研究分担者 UMER HAMZA  一橋大学, 経済研究所, 外国人特別研究員
研究期間 (年度) 2020-11-13 – 2023-03-31
キーワードイスラーム金融 / フィールド実験 / 家計調査
研究実績の概要

イスラーム圏の途上国の多くで、近年広がりつつあるのがイスラーム金融である。固定された利子率を禁じるコーランの教えに基づき、貸し手と借り手の双方がリスクをシェアする利子率変動型のイスラーム金融は、農業金融においても利用が広まっている。しかしこのようなイスラーム金融の持つインパクトと、そのインパクトが生じるメカニズムについては、十分に明らかになっていない。そこで、パキスタンにおいて、在来型の金融とイスラーム金融それぞれの利用農民を対象に、家計調査と実験を複数回実施し、実験データを家計調査データと結合させることにより、これらを実証的に解明することが本研究の目的である。
この目的を達成するための初年度として、令和2年度には、パキスタン農業開発銀行の協力のもとに、利子率固定の在来型金融の利用農民のリストを入手し、調査のための暫定サンプリングを完了した。また、家計調査と実験の設計について、現地にて研究分担者がプリテストを実施した。その結果、世帯構成、農地所有・賃借、耕種農業の産出、耕種農業の経常投入財、農業労働雇用、畜産経営、信用利用状況、農業機械、その他の9セクションからなる質問票の概要ができあがった。この「その他」において、くじを利用したリスクゲーム、異時点間の選択と現在バイアスの有無を明らかにする時間ゲーム、利他性を測る独裁者ゲーム、公正性を測る最後通牒ゲームを実施して、リスク・時間選好と社会選好の中心的指標とする。「その他」において、宗教心の強弱を測るための質問も加える。この家計調査と実験について、令和3年3月に一橋大学研究倫理審査委員会より研究計画の承認を受けた。これらの作業と並行して、利他性と宗教の関係に関する文献調査を進め、ワーキングペーパーを取りまとめた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

令和2年度に実施を予定していた作業のうち、利子率固定の在来型金融の利用農民のリストを入手して調査のためのサンプリングを行うこと、プリテストを通じて家計調査と実験の概要を確定させること、関連研究のサーベーとパキスタン統計局実施の家計調査のマイクロデータを用いての金融選択に関する予備的分析を進めることについては、順調に実施することができた。他方、金融機関が利用者とリスクをシェアするために利子率は固定されないイスラーム金融については、利用農民のリストを入手して調査のためのサンプリングを行うことができなかった。これは、パキスタン農業開発銀行の顧客ではイスラーム金融のサンプル数が不足することが判明し、イスラーム金融に力を入れている別の銀行に協力を要請したが新型コロナ禍の影響で作業が遅れたことによる。また、中間の分析結果を開発経済学会などで報告することに関しては、会議の中止やオンライン化に伴い、国内出張や口頭報告の中止を余儀なくされた。

今後の研究の推進方策

令和3年度に令和2年度に生じた遅れを取り戻す。具体的には、パキスタン・パンジャーブ州において家計調査と実験を予定通りの令和3年度に実施する。そのためにまず在来型金融の利用農民のサンプリングと比較可能になるようなイスラーム金融の利用農民のサンプリングを完了させる。リストは相手方の同意を得て入手し、サンプリング実施後に個人情報をすべて消去する。家計調査と実験の設計について、令和2年度に実施したプリテストの成果を反映させて改訂し、最終版を確定させる。家計調査と実験は、一橋大学研究倫理審査委員会より承認を受けた研究計画に沿って、研究倫理に十分な配慮を行いつつ実施する。家計調査のデータは、各セクションごとの整合性などのクリーニングを令和3年度後半に完了させたうえで、記述的分析を行い、実験データとの相関関係をチェックする。続いて、農業所得や農業生産性へのインパクトを推定し、そのメカニズムを明らかにするための計量経済学的分析を進め、その成果をワーキングペーパーにまとめ、開発経済学会や日本経済学会など、日本国内で報告する。続いて令和4年には、家計調査・実験データの解析を終えて、農業所得や農業生産性へのインパクトおよびそのメカニズムを整理し、論文数本にまとめる。イスラーム金融を選択する際に、社会選好としての宗教心がどのように影響し、そのことが所得や生産性にどうつながるのかを明らかにすることにより、既存研究には見られない新たな論点を提供する。論文を内外の学会(開発経済学会、日本経済学会、NEUDC会議、ISID会議など)で報告して改訂作業を進め、令和4年度内にJournal of Development Economicsなどトップジャーナルに投稿する。分析結果の持つ政策含意をポリシーブリーフという形で取りまとめ、国際協力機構(JICA)や世界銀行等に情報提供する。

  • 研究成果

    (2件)

すべて 2021 2020

すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件)

  • [雑誌論文] A behavioral model to examine religiosity & generosity2021

    • 著者名/発表者名
      Hamza Umer
    • 雑誌名

      Current Psychology

      巻: s12144 ページ: 1-11

    • DOI

      10.1007/s12144-021-01491-3

    • 査読あり
  • [雑誌論文] 内戦下の暴力とリスク・時間選好:パキスタン北西部の事例より2020

    • 著者名/発表者名
      黒崎卓・窪田悠一・大林一広
    • 雑誌名

      経済研究

      巻: 71 ページ: 317-332

    • 査読あり

URL: 

公開日: 2021-12-27  

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