研究課題/領域番号 |
20F20335
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
八島 栄次 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (50191101)
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研究分担者 |
ZHENG WEI 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2020-11-13 – 2023-03-31
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キーワード | らせん / キラリティ / ラダーポリマー / 超分子 / 自己組織化 |
研究実績の概要 |
自己組織化を巧みに活用することで不斉ナノ空孔を有する多種多様な新規ヘリカルラダーポリマー・メタロキラル超分子を合成し、それらの特異な構造特性を戦略的に活用した高度キラル機能の開拓を目指し、以下に示す成果を得た。 【1】キラルおよびアキラルユニットの種類や結合位置を適切に選択することで、中空型のヘリカルラダー構造を合目的的に構築することに成功するとともに、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)用キラル固定相として優れた不斉識別能を発現することも明らかにした。 【2】環化前駆体として、3つの1,8-アントラセンおよび4つのp-フェニレンユニットを含有するπ共役化合物を設計・合成した。生成物は、側鎖間の立体障害により、動的な軸性キラリティを複数有するため、最大で20種類のジアステレオマーからなる平衡混合物として存在することが分かった。得られた複雑な混合物を用い、前年度までに確立したアルキン芳香環化反応を行なったところ、望みのラダー化反応が定量的かつ化学選択的に進行することを見出した。結果として、一組のエナンチオマーのみからなる構造欠陥のない「M字構造を有するトリプル拡張ヘリセン」の合成に世界で初めて成功した。目的のキラルラダー構造を有していることは、モデル化合物の単結晶X線構造解析、質量分析及び二次元NMR、IRを含む種々の分光分析により実証した。 【3】キラルHPLCにより、1.で合成したラセミのトリプル拡張ヘリセンを光学分割することに成功した。得られた光学活性体は、明確な円二色性 (CD) を示し、また、そのらせん反転障壁は極めて高く、溶液中、80 °C下でもまったくラセミ化しないことを見出した。さらに、π共役骨格に由来する蛍光発光領域に巨大な円偏光発光(CPL)を示し、これまで報告されているヘリセン系化合物の中でもっとも優れたCPL特性を示すことを実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画と期待通り、キラルなラダー骨格を有する小分子、高分子、メタロ超分子を、計算化学を駆使した分子設計を基に合目的的に設計・合成した。本研究で見出した「アルキン芳香環化反応を利用した構造制御法」は、ラダー化によるコンホメーション規制を基軸として、望みの一次および二次構造を合目的に(高)分子に付与可能な汎用性の高い有機合成化学的手法である。本年度は、らせん構造を決定づける各モノマーユニットの構造パラメータ(ユニット長、結合角、二面角等)に基づいて、キラル及びアキラルユニットの組み合わせが異なる一連の前駆体ポリマーを設計・合成し、それらを化学選択的/定量的アルキン芳香環化反応を行うことで、多彩ならせん構造を有するヘリカルラダーポリマーの合成に成功した。さらに、ヘリカルラダー構造を合目的的にポリマー主鎖に組み込むことで、広範な種類のキラル化合物に対して優れた不斉識別能が発現することを見出し、HPLC用キラル固定相として応用できることも明らかにした。一方、ラダー化前のランダムコイル構造を有する前駆体ポリマーは、光学分割能をまったく示さなかった。ヘリカルラダー構造の構築が、高性能な機能性キラル材料を開発するための有力な戦略となりうることを示した点で画期的な成果と言える。さらに、この分子内アルキン芳香環化反応を活用することで、構造欠陥のない光学活性なトリプル拡張ヘリセンの合成に成功し、これまで報告されている数多くのヘリセン系化合物の中で、もっとも優れた円偏光発光特性を示すという、当初想定もしていなかった極めて意義深い成果も得られた。得られた成果の一部を国際学術誌に発表し (Nat. Sci., 2022, 2, e20210047)、さらに、近日中に投稿予定の未発表成果も数多く得られている。以上より、当初の計画以上に研究が進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までに得た知見をもとに、化学選択的/定量的アルキン芳香環化反応によるラダー化を基軸として、多種多様な不斉空孔を有する新規ヘリカルラダーポリマー・メタロキラル超分子を新たに設計・合成し、それらが有する特異な構造特性を戦略的に活用した高度キラル機能の開拓を目指し、以下に示す研究を推進する。 【1】計算化学を駆使することで、キラルおよびアキラルな繰り返しユニットの構造を適切に分子設計し、内壁がπ電子で覆われた不斉ならせん空孔を有する一方向巻きのヘリカルラダーポリマーを合成する。 【2】1.で合成する一連の構造明確なヘリカルラダーポリマーを用い、 HPLC用キラル固定相を開発し、種々のラセミ化合物に対する光学分割能の評価を行う。空孔内にキラルなゲスト分子を包接することができれば、ヘリカルラダーポリマーとキラルゲストの間にπ電子を介した不斉選択的なホスト-ゲスト相互作用が働くと期待できる。光学分割メカニズムとらせん構造の相関を明らかにし、分子設計にフィードバックすることで、より高性能な光学分割材料の開発を目指す。 【3】「トリプチセン、スピロビインダン、スピロビフルオレン等の不斉を誘導するキラルユニット」および「金属への配位部位」を有する一方向巻きにねじれたキラルなラダー型配位子を系統的に設計・合成するとともに、種々の金属イオンとの錯形成反応を検討することで、不斉空孔を含有するメタロキラル超分子を合成する。 【4】3.で合成する光学活性メタロキラル超分子群が有する分子レベルの不斉ナノ空孔を不斉反応場・キラル認識場として活用し、不斉触媒や光学分割、キラルセンシングに関連する高度なキラル機能の開拓を目指す。 前年度に得た研究成果に更に磨きをかけ、より重厚な論文として国際誌に投稿する。
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