研究課題/領域番号 |
20F20373
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
江島 広貴 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (00724543)
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研究分担者 |
RICHARDSON JOSEPH 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2020-11-13 – 2023-03-31
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キーワード | 金属-ポリフェノール錯体 |
研究実績の概要 |
COVID-19の世界的な流行は個人防護具の増産と性能改善の必要性を浮き彫りにした。現状の課題はエアロゾル化されたウイルスはほとんどの種類のマスクを通過できることである。したがって、マスクの着用は他人への拡散を防ぐことには一定の効果があるが、装着者への拡散を防ぐという点においては効果が薄い。迅速な対応が要求される現在、個人防護具の一からの再設計は実用的でなく、既存の個人防護具の改善に焦点を当てた研究が必要である。そこで本研究ではこれまで独自に開発してきた金属-ポリフェノール錯体からなるコーティング技術をサージカルマスクやその他の市販マスクへと適用し、ウイルスや粒子状物質に対するコーティングの影響について研究することを目的とした。 令和2年度は天然および合成ポリフェノール分子を含むさまざまなリガンドと金属イオンとからなる金属-ポリフェノール錯体について検討した。特に、絹、綿、紙などの布地へのコーティングを、形成能力、着色、および洗浄耐性の観点から調査した。その中で、銀を金属成分とした金属-ポリフェノール錯体からなる網目構造体が有望であることを見出した。形成条件、濃度、および基板材料を最適化することで無色のコーティングとすることができた。 令和3年度はマスクの繊維上に金属-ポリフェノール錯体からなるフィルムを形成し、微生物やウイルスとの相互作用を調べた。コーティング条件を最適化すると安定なフィルムが得られた。最適化されたコーティングは脂質エンベロープウイルスに対して抗ウイルス効果を示した。また、予備的な抗菌試験において微生物の成長阻害を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
金属-ポリフェノール錯体からなるネットワークフィルムとウイルスとの相互作用を調査し、金属-ポリフェノール錯体中の金属イオンを適切に選択することで抗ウィルス性が発現することを明らかにした。合成および天然のポリフェノールについて調査し、コーティング被膜の構成要素として有望であることを示した。最適化されたコーティング被膜は、脂質エンベロープウイルスに対して抗ウイルス効果を示した。予備的な抗菌試験も実施し、成長の阻害を確認した。
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今後の研究の推進方策 |
金属-ポリフェノール錯体からなるコーティング被膜とウイルスの相互作用を研究し、最適化された被膜は脂質エンベロープウイルスに対して高い抗ウイルス効果を示した。また、これまでに予備的な抗菌試験を実施し、微生物の成長阻害を観察した。本年度はさらに、金属-ポリフェノール錯体からなる被膜の抗菌、抗真菌、および抗ウイルス性能を調査し、単一の組成物が異なる環境下(液体、乾燥、ゲル)の3種類の微生物すべてに対して効果を発現するか調査する。さらに、空気中の重金属粒子状物質との相互作用と補足活性について調べる。分子構造が制御された擬ポリフェノール高分子を用いてターゲティングやセンシングなどの追加機能をフィルムに付与できないか検討する。
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