紅海北部のサンゴ群集は、熱ストレスが増加しているにもかかわらず、高い耐熱性を示すことが報告されている。その理由を調べるために、本研究では、1982年から2020年にかけてのリモートセンシングによって求められた表面海水温データを用いて、紅海の熱ストレス指標のDegree Heating Week (DHW) の空間分布とサンゴの白化閾値(30℃、31℃、32℃)との関連を調べた。その結果、32℃の閾値を適用すると、紅海の北部ではDHWが劇的に減少するが、紅海の中部や南部では減少しないことが示され、この結果は紅海全域の過去の白化観測(1998-2020)と一致することが示された。また、CMIP5のモデル出力を用いて、異なるRCPシナリオの下での紅海の温暖化傾向を予測しすると、最も過酷な RCP8.5 シナリオでのモデル予測では、紅海全域で 21 世紀末までに約 3℃の温暖化を示し、北部紅海の温暖化(2~2.5℃)は中部・南部地域(2.7~3.1℃)に比べて顕著ではなかった。この温暖化は北部紅海が想定する温度限界値を下回ったままなので、この地域がサンゴにとって避難所として機能する可能性が示唆された。 さらに、紅海北部の流動・温熱環境を精査するために、COAWST modeling systemを用いて紅海全体の領域からネスティングを行ってダウンスケーリングをすることで紅海北部の高解像度流動シミュレーションを実施した。その結果、紅海北部ではスエズ海から冷たい海水が流入するとともに、底層から冷たい海水が湧昇する海域であることが分かり、それによってサンゴにとって良好な温熱環境が保たれていることが分かった。
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