研究課題/領域番号 |
20F20407
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
小守 壽文 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(歯学系), 教授 (00252677)
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研究分担者 |
QIN XIN 長崎大学, 医歯学総合研究科(歯学系), 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2020-11-13 – 2023-03-31
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キーワード | Runx2 / 肥大軟骨細胞 / 血管進入 / アポトーシス / 分化転換 / 骨芽細胞 |
研究実績の概要 |
四肢は、まず軟骨によって形成されるが、血管が侵入し軟骨が骨に置換される時、成長板の終末期肥大軟骨細胞はアポトーシスで死滅するか、骨芽細胞やストローマ細胞に分化転換する。我々は、これらの過程におけるRunx2の機能を明らかにするために、肥大軟骨細胞特異的にCreを発現するCol10a1 Creトランスジェニック(tg)マウスをRunx2 floxマウスと交配、Runx2fl/flCreマウスを作製した。Runx2fl/flCreマウスでは、終末期肥大軟骨細胞でのVegf発現は低下していたが、bone collarの骨芽細胞はVegfを強く発現しており、軟骨への血管進入はコントロールマウスと同様に観察された。Runx2fl/flCreマウスでは、コントロールマウスよりPten, Fas, Bnip3の発現が上昇しており、終末期肥大軟骨細胞でのアポトーシスが増加していた。Runx2fl/flCreマウスでは、軟骨細胞から骨芽細胞への分化転換が起こらず、胎生期に一次海綿骨を形成できなかった。分化転換した骨芽細胞は、海綿骨および皮質骨の両者の骨芽細胞として検出されたが、6週齢以降のRunx2fl/flCreマウスは、海綿骨および皮質骨ともに正常レベルに形成されていた。これは、軟骨周囲の間葉系細胞由来の骨芽細胞によって補われたためと考えられた。 これらの実験により、bone collarの骨芽細胞のVegf発現が軟骨への血管進入に重要であること、Runx2は終末期肥大軟骨細胞のアポトーシスを抑制すること、Runx2は軟骨細胞から骨芽細胞への分化転換に必須であること、この分化転換は胎生期・新生児期の一次海綿骨形成に重要な役割を果たすが、成獣マウスの骨量獲得には必須ではないこと、軟骨周囲の間葉系細胞由来の骨芽細胞が海綿骨・皮質骨形成において主要な役割を果たすことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
胎生15.5日のRunx2fl/flCreマウスとコントロールマウスより、肥大軟骨細胞および終末期肥大軟骨細胞をレーザーマイクロダイセクションにより採取、real-time RT-PCRにて遺伝子発現を比較した。Vegfa, Mmp13, Ibsp, Spp1発現は、Runx2fl/flCreマウスで低下しており、終末期肥大軟骨細胞でのこれらの遺伝子発現にRunx2が必要であることを明らかにした。また、Runx2fl/flCreマウスでは、Tnfsf11発現が低下し、軟骨細胞層の吸収が遅延しており、終末期肥大軟骨細胞での、Tnfsf11発現にRunx2が必要であることを明らかにした。また、Runx2は、終末期肥大軟骨細胞でPten, Fas, Bnip3の発現を抑制することにより、そのアポトーシスを抑制していることを明らかにした。Runx2fl/flCreマウスとRosa26-CAG-loxP-mTFP (Rosa)マウスおよびCol1a1-tomato(tomato)マウスを交配し、Runx2fl/+ Cre Rosa tomato(コントロール)マウスおよびRunx2fl/fl Cre Rosa tomatoマウスを作製した。これらのマウスの解析より、分化転換した骨芽細胞の比率は、コントロールマウスの海綿骨で胎生17.5日で30%、新生児で20%、1週齢で15%、1週齢の皮質骨で4%であった。3週齢のコントロールマウスでは、分化転換した骨芽細胞の比率は、海綿骨、皮質骨ともに約15%であった。一方Runx2fl/fl Cre Rosa tomatoマウスでは分化転換した骨芽細胞をほとんど認めなかった。これらの実験により、分化転換した骨芽細胞の骨形成における寄与度および分化転換におけるRunx2の必要性を明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
終末期肥大軟骨細胞層で分化転換を誘導する分化・増殖因子を同定する。終末期肥大軟骨細胞層周囲のbone collarの骨芽細胞から産生される因子が分化転換を誘導していると推察される。E14.5及びE15.5の1.3 kb Runx2 enhancer Tomato (En-Tomato)マウスの大腿骨からTomato陽性細胞をFACSでソーティングし、mRNAシークエンス(外注)によりbone collarの骨芽細胞の遺伝子発現を調べる。 骨芽細胞系列への分化には、hedgehog、Wnt、FGF、Pthlh、BMP、TGFβが関与していた。これらの因子および上記でbone collarの骨芽細胞に発現が見られた分泌因子を使って、E15.5のEn-Tomatoマウスの初期軟骨細胞培養を行い、分化転換が起こる(Tomatoの発現が見られる)か調べる。 すでにCol10a1 Cre tg(Cre)マウス、Runx2 floxマウス、Rosa26-CAG-LoxP-mTFP1(Rosa)マウスを交配してCreRosaマウスおよび分化転換の起こらないRunx2fl/flCreRosaマウスを作製している。分化転換が起きる直前の胎生15.5日(E15.5)と分化転換が起き始めたE16.5の大腿骨よりmTFP1陽性細胞をFACSで分離し、CreRosaマウスとRunx2fl/flCreRosaマウス間、およびCreRosaマウスのE15.5 とE16.5間で比較したマイクロアレイの結果を詳細に解析する。上記の因子に加え、マイクロアレイの解析結果をもとに添加する分化・増殖因子をさらに追加し、E15.5のEn-Tomatoマウスの初期軟骨細胞培養を行い、Runx2発現及び分化転換(Tomato発現)を誘導する分化・増殖因子のコンビネーションを決定する。
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