研究課題
グルタチオンは細胞内の重要な抗酸化分子である。これまでにマクロファージをATPで刺激すると、グルタチオンが細胞外へ放出され、それが引き金となってインフラマソームと呼ばれる自然免疫応答が活性化されることを見出している(未発表データ)。本研究では、グルタチオン輸送によるインフラマソーム活性化の制御機構の分子基盤の解明を目指している。本年度は、(1)インフラマソーム活性化剤の種類によるGSH放出の違い、(2)マウス骨髄由来マクロファージにおけるGSH放出とインフラマソーム活性化、(3)マウス個体でのインフラマソーム活性に対するGSHおよびGSSGの影響、を中心に解析をすすめた。NLRP3インフラマソームの活性化は、マウスJ774.1細胞を大腸菌由来リポ多糖(LPS)で前刺激したのち、異なる刺激剤で本刺激を行った。具体的にはATP、nigericin、ネズミチフス菌感染、2本鎖DNA(poly dA:dT)による刺激によって活性化した。興味深いことに細胞内グルタチオンの放出はATP刺激のときにだけ観察された。またマウス骨髄由来マクロファージを同様にLPSとATPで刺激すると、細胞内グルタチオンの放出が確認された。マウス腹腔内にLPSとATPを投与するin vivoインフラマソーム活性化モデルを構築した。血漿中のIL-1βの増加を確認した。そのモデルにGSHあるいはGSSGを腹腔内投与すると、IL-1βの増加が有意に減少し、個体内においてもグルタチオン放出を介したインフラマソームの活性化が起こっている可能性が示唆された。これらの結果をまとめて論文発表した。
2: おおむね順調に進展している
今年度は、ATP刺激によるマクロファージからのグルタチオン放出とインフラマソーム活性化の連関を明らかにし、その結果を論文発表できたため。
2021年度以降は、ATP刺激がどのような仕組みによってグルタチオン放出をもたらしているのか、その分子基盤の解明に挑む。グルタチオン化タンパク質の解析:NLRP3インフラマソームの活性化プロセスでタンパク質翻訳後修飾であるグルタチオン化がどのように変動するのかを、抗グルタチオン抗体を用いたWestern blotにて解析する。目的のグルタチオン化タンパク質のバンドをゲルから切り出してプロテオミクスにより同定する。グルタチオントランスポーターの同定:ATP刺激によって引き起こされるグルタチオン輸送に関わるトランスポーターの同定を試みる。細胞外に放出されたグルタチオンをハイスループットで検出・定量できる測定システムを構築する。チオール反応試薬であるモノブロモビマンがグルタチオンと反応することを利用し、蛍光プレートリーダーで定量する。この解析は次年度も継続して行う。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Redox Biol.
巻: 41 ページ: 101930
10.1016/j.redox.2021.101930