電子状態計算に基づく情報化学的アプローチにより、一重項分裂および熱活性遅延蛍光を利用した太陽電池材料・発光材料の迅速開発法に関する研究を実施した。これらの光電変換材料では、複数の励起状態のエネルギー準位に対して、厳しい物理条件が課されている。例えば、一重項分裂材料の場合には、一重項励起状態のエネルギーが三重項励起状態のエネルギーの2倍となるとき、太陽電池としての光電変換効率を最大化できる。しかし、そのような条件を満たす分子を、試行錯誤的な実験のみで見つけることは事実上難しい。そこで、一般に高精度量子化学計算に基づく分子設計が行われてきたが、その計算コストの高さが壁となり、数百万〜億を超える候補物質に対する迅速スクリーニング法の確立が求められていた。
本研究では、半経験分子軌道法に基づき迅速に生成できる電子的特徴量と、精密な時間依存密度汎関数法に基づく励起エネルギーを関連づける機械学習モデルを構築することで、僅かな時間で大量の候補物質の電子的性質を高精度予測できる「電子状態インフォマティクス」の手段を確立した。開発手法を一重項分裂材料の探索に応用した結果、天然の色素として知られるインジゴを基盤骨格とした分子群から、合成可能性が高い候補有機分子を複数見出すことができた。また、熱活性遅延蛍光材料の探索においては、近赤外発光をする熱活性遅延蛍光材料の探索に成功した。
|