研究課題/領域番号 |
20F20767
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所 |
研究代表者 |
久保田 裕道 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 無形文化遺産部, 室長 (00724593)
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研究分担者 |
JANSE HELGA SARA KATAR 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 無形文化遺産部, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2020-11-13 – 2023-03-31
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キーワード | 無形文化遺産 / ジェンダー / 民俗文化財 / 無形文化財 |
研究実績の概要 |
本研究では、日本で法的に保護された無形文化遺産に関して、包括的なジェンダー分析を行うことを目的としている。プロジェクトの2年目にあたる2021年度には、そのためのヒアリング調査、現地調査及び文献調査を遂行した。ただし、2021年6月~2022年1月に産休・育休を取得したことと、コロナ禍によって調査が制限されたために、当初計画から変更し、リモートによる調査を増やし、また若干の現地調査を2022年度に移して行うことにしている。 現地調査としては、香川県高松市・まんのう町と沖縄県那覇市等を訪れ、香川県の風流芸能と沖縄県の風俗慣習・祭礼行事・伝統的武術に関して調査を行った。また東京都では、都内で伝承されている獅子舞・祭礼行事や、都内で活動している岩手県の鹿踊りについてヒアリングを行った。そのほか、文化財行政に対する調査として埼玉県・島根県の文化財行政担当者・関係者にヒアリングを行い、県内の無形民俗文化財の全体的な傾向を捉えた。ジャンル的な調査内容としては、神楽、獅子舞、鹿踊り、人形芝居、囃子、民謡などの分野を中心としている。 各事例調査においては、いずれも性別の状況(男女比率、性別の表現、性別による制限された参加の頻度、およびその他の関連要因等)を聞き取り、無形文化遺産における男女間ギャップを明らかにしている。その上で、背景となる社会的な要因、歴史的な要因なども考慮し、また近年始められた新たな取り組みにも触れつつ、日本の無形文化遺産の特性を探っている。2021年度に調査が不可能であった中部ブロック、東北ブロックについては、最終年度にあたる2022年度に調査を行い、またコロナ禍を経て復活した無形文化遺産等について現地調査を継続する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
産休・育休を得たことによる当初の調査の遅れはあるが、期間を延長したことで予定していた調査の一部を2022年度に移したため、予定通り進んでいる。またコロナ禍によって対象とする無形文化遺産が実施されないといったケースも多々起きているが、代わりにリモート調査を取り入れることや、東京近郊で可能な調査を増やして、調査を進めている。 東京都内では、「無形文化財」の事例として「能楽」について、実演者・専門家に対する聞き取り、アンケート等による調査や、実演やワークショップでの調査を行った。能楽に関してジェンダーの観点から研究を行っている他の研究者とも情報を交換した。また「無形民俗文化財」の分野では、都内の祭礼行事に参加している伝承者をはじめ、都内で香川県や岩手県など出身地の民俗芸能の伝承活動をしている伝承者にヒアリングを行った。 また文化財行政の立場から見た当該都道府県の無形文化遺産の状況及びそのジェンダーの状況について、文化財担当者・関係者へのヒアリングもリモートを活用しながら進めている。これまでに奈良県・島根県についてリモートで、沖縄県、埼玉県、香川県まんのう町については対面でヒアリングを実施してきた。 また文化庁による公式のリストや解説など、公式情報にあるデータに対して行ってきた定量的な分析を当初から進めている。研究成果としての論文執筆は、「背景」と「観察と討論」を中心に執筆を進め、順調に進んでいる。調査は部分的な状況ながら、結論は形になりつつあり、日本の文化財保護制度における無形文化遺産内のジェンダーの問題に貢献できるものと考えている。そのために調査の結果に基づき、ジェンダーの側面を主流化できる無形文化遺産保護の方法を提示、あるいはインベントリー作成時に有用なポイントを特定すべきであり、その作業についても推進している。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の調査結果をまとめつつ分析を行い、今年度の調査対象(産休・育休により変更した対象を含む)と、昨年度にコロナ禍によって十分に調査できなかった地域、不足する内容についての調査を行う。まず国内から選択した地域のうち、岩手県、岐阜県、島根県、熊本県について、本年度前半での実地調査を進める。 さらに昨年度補足的に聞き取り及びアンケートによる調査を行った香川県・熊本県の「風流」系民俗芸能については、他の同類芸能との比較を進め、その中でのジェンダーの傾向や他分野との比較についての分析を進める。特に風流系民俗芸能は女性の参加が顕著であり、そうした事例の傾向分析に適していることが判明したため、より詳細な調査を行う予定である。 また昨年度聞き取り調査を行った沖縄県に関しては、ジェンダーについても琉球文化に基づいた独特の観念があることから、実際の無形文化遺産に関する現地調査を踏まえて、調査結果・分析に反映させる。加えて無形文化遺産保護に関わる研究者、行政担当者などへの聞き取り調査も重ね、客観的な理論構築に向けての情報収集を行うものとする。 最終的な結論としては、2つの視点を生み出す。①保護対象である無形文化遺産における包括的なジェンダー分析、②新たな無形文化遺産インベントリー作成の提案、この2点である。前者は、既存の保護システムの状態と既存のジェンダー状況との格差への注意喚起に貢献し、それ自体がジェンダー意識を高めるものとして提示を行う。後者は、将来的に無形文化遺産条約を改善するにあたって、ユネスコと締約国にとって重要な参考資料として貢献する可能性がある。こうした成果は、ジェンダー平等の主流化に関心のある締約国にとっては有用となり得よう。成果については、英語での論述を基本としつつも、一部を翻訳し、日本国内の無形文化遺産保護に関する提言としても発表する。
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