研究課題
地震発生機構として着目されている現象にThermal Pressurization(TP)がある。TPは、「地震時の断層摩擦発熱による間隙水圧上昇が大地震を誘発する」という物理化学現象である。しかし、大地震発生場である沈み込み帯のどのような場所でこのTPが起こりうるのか、その深度条件はよくわかっていない。そこで本研究では、南海付加体中の間隙率の異なる岩石試料を用いて地震性の高速すべり実験(TP再現実験)をおこない、地震時に断層内部で進行する「変形-反応-流体移動の動的連成過程」を詳細に調べる。特に、間隙率を沈み込み帯の深さと等価であると考え、沈み込みプレート境界の浅部~深部のどのような深度でTPが有効に起こりうるのかを明らかにしたい。2021年度も、コロナ感染拡大の影響で移動を伴う野外調査をおこなうことが困難となり、実験試料を入手することができなかった。そこで、研究室で保管している標準的な花崗岩と斑レイ岩試料を用いて、地震時の断層摩擦発熱による「間隙水の圧力の変化」ではなく、断層摩擦発熱による「間隙水の物性の変化」に着目した研究に研究主題をシフトした。具体的には、地震性高速すべりを再現した実験をおこない、高速すべり後の断層強度回復過程に断層帯に存在する水(間隙水)の物性がどのように関与しているのかを調べた。実験の結果、地震後の断層の強度回復に断層帯中の水の振動物性の変化が関与している可能性が明らかになってきた。
2: おおむね順調に進展している
地震性高速すべりを再現した実験を標準的な花崗岩と斑レイ岩試料を用いておこない、高速すべり後の断層強度回復過程に断層帯に存在する水(間隙水)の物性がどのように関与しているか調べた。水の物性は、実験前後の断層物質を顕微ラマン分光および熱重量測定によって調べた。高速すべり実験と実験試料の化学分析の結果、高速すべり後の断層の強度回復が、従来報告されてきた低速すべり後の強度回復と比較して回復時間が著しく短いことがわかった。また、高速すべり後に強度回復が著しい試料では、断層面に付着した水には特徴的に変角振動モードがあらわれることを見出した。さらに、この変角振動のラマンスペクトルが時間とともに減衰していき、その減衰時間と強度回復時間に相関があることがわかった。地震後の強度回復に断層帯中の水の振動モードの変化が関与している可能性が明らかになってきた。
残り8か月の研究期間で、実験結果をJPGU(2022年5月幕張)およびGordon Research Conference(2022年8月米国)で発表するとともに、学会での議論を参考にしながら研究結果を国際誌へ投稿する。論文執筆時に補足実験及び実験前後の試料の熱重量測定が必要になってくると思われる。実験および化学分析も適時行う。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件)
Earth and Planetary Science Letters
巻: 574 ページ: -
10.1016/j.epsl.2021.117161
Journal of Geophysical Research: Solid Earth
巻: 126(6) ページ: -
10.1029/2021JB021831