地震発生機構として着目されている現象にThermal Pressurization(TP)がある。TPは、「地震時の断層摩擦発熱による間隙水圧上昇が大地震を誘発する」という物理化学現象である。当初、本研究課題は南海トラフ付加体中の間隙率の異なる岩石試料を用いて地震性の高速すべり実験(TP再現実験)をおこない、地震時に断層内部で進行する「変形-反応-流体移動の動的連成過程」を詳細に調べる予定であった。しかし、コロナ感染拡大の影響で移動を伴う野外調査をおこなうことが困難となり、実験試料を入手することができなかった。そこで、研究室で保管している標準的な花崗岩と斑レイ岩試料を用いて、地震時の断層摩擦発熱による「間隙水の圧力の変化」ではなく、断層摩擦発熱による「間隙水の物性の変化」に着目した室内研究に研究主題をシフトした。 昨年度に引き続き、地震性高速すべりを再現した実験をおこない、高速すべり後の断層強度回復過程に断層帯に存在する水(間隙水)の物性がどのように関与しているのかを調べた。その結果、地震直後の断層の強度回復速度は従来考えられてきた速度より2桁以上大きくなることがわかった。このことは、地震時に摩擦強度が著しく小さくなった断層は、地震後すぐに強度を回復し、次の地震のための弾性歪エネルギーを蓄積しはじめることを意味している。さらにこの急激な強度回復は、断層面上の固体接触域における水-鉱物化学結合の熱的変化に起因することが、実験後の回収試料の微細構造観察と顕微ラマン分析から明らかになった。これら一連の成果を学会等で発表するとともに、論文として公表すべく国際誌に投稿した。
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