研究課題/領域番号 |
20F40041
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
中西 尚志 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, グループリーダー (40391221)
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研究分担者 |
GUPTA RAVINDRA 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2020-11-13 – 2023-03-31
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キーワード | 機能性液体 / 液体エレクトレット / アルキル-πエンジニアリング / πナノクラスター |
研究実績の概要 |
本研究課題では、振動・加圧などにより無電源発電または振動センサ機能を持つ、特に伸縮・折り曲げ可能なエレクトレット素子の活性材料となる帯電能の高い液体材料の創成を目指している。本研究目的のために、複数のアルキル鎖を導入した歪んだ構造のヘキサベンゾコロネン誘導体を分子設計した。狙いとしては、複数の歪んだ構造ヘキサベンゾコロネン(c-HBC)環をπ-π相互作用によりナノクラスター化させ、常温液体状態を保持する。複数の電荷を同πナノクラスター内に閉じ込めることで、高性能エレクトレット液体を創成する。 昨年度までに合成したアルキル化(直鎖、分岐鎖、高度分岐鎖)c-HBC誘導体の液体構造の解析を実施した。小角広角X線散乱および各種分光測定(UV-Vis吸収、蛍光、蛍光量子収率)の結果では、殆どのc-HBC誘導体では隣接するc-HBC環同士に相互作用が生じていることが示唆された。ただし、液晶の様な長距離に及ぶ組織構造は形成して居らず、ナノクラスター化が示唆された。また、光導電性測定を実施した結果、ナノクラスター化の見られなかったc-HBC誘導体に関して特異的にキャリアの長寿命性が観測された。また、液体エレクトレット性能を評価するためにコロナ帯電処理を実施し、表面電位測定を行った結果、長寿命キャリア生成を見せた誘導体が最も表面電位特性としては優れている結果を示した。このことは、導入した分岐アルキル側鎖で隔離されたc-HBCでは、帯電した電荷が保護安定化され、結果として優れたエレクトレット性能を示していると推察する。また、伸縮性振動発電素子を作成し、性能評価を行った結果、液体ポルフィリンを基材にした同様な素子と比較して、約20倍もの出力電圧を示すことが分かった。 上記結果は、第31回日本MRS年次大会において、Gupta氏より口頭発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初はナノクラスター化したπユニットに効率的に電荷を保持できると想定して研究を開始したが、詳細な構造解析を経て、光伝導度、エレクトレット性能を評価した結果、クラスター化の無い、πコア部位が孤立したアルキル側鎖で保護された構造が、より優れた電荷保持、帯電力を示すことが分かってきた。本結果は、組織構造と電子物性が明確な相関を示しており、エレクトレット材料としても過去に理解が及んでいなかった解釈となる。また、我々が初めて報告した液体エレクトレット素子である伸縮性振動発電素子の出力性能が20倍にも向上することができた事実は、取り組んで来たアルキル化液体c-HBCが、極めて優れたエレクトレット性能を秘めていることを示唆している。 また、昨年度後半に、同アルキル化c-HBC液体が効率的な一重項酸素の発生能を有していることを見出していた。本現象が、同c-HBC液体に限った現象なのか否か、検討した結果、アルキル化液体ポルフィリンなど複数のアルキル化π液体分子が同様に優れた一重項酸素の生成能を示すことを見出した。本結果は、当初想定していた内容からは若干方向性は異なるが、液体分子構造と光機能の相関を明らかにするためにも、エレクトレットの研究と並行して検討して行く予定である。
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今後の研究の推進方策 |
エレクトレットの研究においては、帯電後の表面電位測定、伸縮性振動発電素子化した状態、何れにおいても実験条件、環境等によって結果が大きく影響を受けることが問題となっている。完全に外場から隔離された環境で実験が行える訳でもなく、同じ測定条件下での再現性の確認に時間を有すこととなっている。ただし、多くのノウハウを習得できつつあるので、早急に学術論文にまとめ発表する予定である。 アルキル化c-HBC液体のエレクトレット性能を評価する過程で、アルキル化度の異なる液体フラーレンの性能評価も手掛けている。フラーレンのπ共役面の露出度(=隔離度)とエレクトレットとしての帯電能、電荷保持力の相関に関して明らかにしていきたい。 一重項酸素生成能に関する実験でも、均質性に劣る液体薄膜からの定量評価の確立が課題となっており、エリプソメータ測定などを駆使して、本課題の克服を行う。同時に、液体としての流動性を活かした一重項酸素生成特性の応用に関しても検討を深めて行く。 上記三つの研究が同時進行しているが、何れも学術論文への掲載を研究期間内に目指す。
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