本研究は、都市改造が望ましくない歴史都市において、建物と車両等による同時多発的街路閉塞がもたらす災害時避難の危険性に対するシミュレーション指標「都市災害耐性(City Evacuation Tolerance (CET))」の目標を明らかにすることを目的とする。具体的には、避難所キャパシティやその耐久性、街路密度等をCETとして、特にタイ国チェンマイ市を研究対象としてその世界遺産登録にに向けた防災上の課題と整備目標(指標)を提言することである。 本研究では、先行事例として、佐賀県鹿島市肥前浜宿の重要伝統的建造物群保存地区(以下、重伝建地区)で行われた準防火地域の解除ならびに緩和条例の設置において検討されたことを参考にすることにした。肥前浜宿の取り組みは、当該重伝建地区の特質である茅葺伝統的建造物の修理のために行われており、一方でチェンマイに茅葺建物があるわけではないが、同じ木造密集市街地であること、他にこれだけの緩和条例が策定された事例が他の日本国内の重伝建地区にないことから、最も適切と考えた。 その結果、事前の防火訓練、初期消火設備(防火水槽、易操作性消火栓等)の面的導入、延焼対策(防火塗料ならびにスプリンクラー設置等による性能確保)、本格消防設備(ポンプ等)、二方向避難の確保を前提とする避難計画を目標とするCETが最も適切であるという結論に至った。 これにより、チェンマイ歴史地区の世界遺産選定に向けた危機管理計画において、最も重要な指標であるCETを示すことができた。 論文については、本研究に直接関係するものとして、国際会議UIA2023に2本投稿して1本採録されてSpringer bookに掲載されることが決定した他、日本建築学会全国大会での発表を行った。また、チェンマイの歴史的眺望景観の危機管理に向けた研究論文2本について、採録された。
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