研究課題/領域番号 |
20F40081
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
井上 圭一 東京大学, 物性研究所, 准教授 (90467001)
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研究分担者 |
MARIN PEREZ MARIA 東京大学, 物性研究所, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2020-11-13 – 2022-03-31
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キーワード | ロドプシン / 量子化学計算 / 分子動力学計算 / 吸収波長制御 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、オプトジェネティクス(光遺伝学)分野で需要の高い、長波長吸収型の微生物ロドプシンの開発に向け、ロドプシンの吸収波長制御の量子化学計算手法の開発と、長波長吸収化を目指した新規分子モデリングを実施する。さらにデザインされた分子について実験科学的な波長測定を行い、それらの結果をフィードバックし計算精度の向上を図ることを繰り返すことで、完全な吸収波長制御技術の確立と、それによる長波長吸収型ロドプシンの実現を目指す。 今年度はコロナ禍による渡航制限のため、スペインからのMarin Perez氏の来日が11月となり、さらにその後14日間の隔離期間を挟んだことで、研究活動の開始が、当初の予定のものより半年以上遅れることとなった。その後、主に高度好塩古細菌由来の波長の異なる微生物ロドプシンについて、ARM法を用いた分子のモデリングを行い、それらの吸収波長の実験値をin silicoで再現することに成功し、さらに各残基ごとの波長シフトに及ぼす影響についても定量的に示すことができた。この結果をもとに、吸収波長の違いを生み出す際に重要となる残基の候補が複数同定され、その仮説を実験的に実証するため、新たに古細菌型ロドプシンの大腸菌を用いた異種発現系の構築を行った。またそれと並行して、ヒドロキシルアミンによるレチナールの加水分解に伴う退色を観察することで、退色前の吸収波長を決定する測定法の確立を行った。そしてこれらの系を用いて複数の変異体の吸収波長を測定したところ、量子化学計算で波長シフトへの寄与が示唆された残基のうちいくつかのものについて、実際に予想されたレベルの波長シフトが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度はコロナ禍による渡航制限のため、スペインからのMarin Perez氏の来日が11月となり、さらにその後14日間の隔離期間を挟んだことで、研究活動の開始が、当初の予定のものより半年以上遅れることとなった。その後、主に高度好塩古細菌由来の波長の異なる微生物ロドプシンについて、ARM法を用いた分子のモデリングを行い、それらの吸収波長の実験値をin silicoで再現することに成功し、さらに各残基ごとの波長シフトに及ぼす影響についても定量的に示すことができた。この中で短波長吸収型の分子では、レチナール周辺の内部結合水の配置が長波長吸収型ロドプシンのものと大きく異なることが見出された。その後この結果をもとに、吸収波長の違いを生み出す際に重要となる残基の候補が複数同定され、その仮説を実験的に実証するため、新たに古細菌型ロドプシンの大腸菌を用いた異種発現系の構築を行ったが、当初想定よりもロドプシンの発現量が低かったため、発現誘導のタイミングや誘導に用いるIPTG濃度、誘導時間などの最適化を行い、最も効率的にロドプシンタンパク質が作られるよう実験条件の最適化を行ったところ、十分量のタンパク質の発現が確認された。またそれと並行して、ヒドロキシルアミンによるレチナールの加水分解に伴う退色を観察することで、退色前の吸収波長を決定する測定法の確立を行った。そしてこれらの系を用いて複数の変異体の吸収波長を測定したところ、量子化学計算で波長シフトへの寄与が示唆された残基のうちいくつかのものについて、実際に予想されたレベルの波長シフトが確認された。
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今後の研究の推進方策 |
来年度はさらに多くの残基について、その波長シフト効果を実験的に決定する。さらに複数アミノ酸の同時変異体についても、遺伝子の構築と吸収波長の決定を行う。これにより、長波長吸収型と短波長吸収型の高度好塩古細菌のロドプシンの違いを生み出す要因について、理論・実験の両面からの完全な理解を目指す。またさらに多様な細菌や古細菌、真核生物に由来するロドプシンについて同様の研究を行い、それぞれのグループの間での吸収波長制御メカニズムの違いについても検討を行う。
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